奥州伊達軍に動き有。
北方国境の一揆鎮圧に向かう可能性大。


簡潔に忍文字で書かれた報告に佐助は目を走らせた。そして直ぐ様其れを火にくべる。数秒してパチパチと火が爆ぜ、それは瞬く間に消えていった。


(さて、どうしようか。)

本来ならば直ぐ様主である真田幸村に報告するべきだがそれは佐助が城にいればの話し。佐助は今主である幸村では無く武田の総大将武田信玄の勅命を請けて上杉の領土へ来ていた。本来の任務は既に完遂されており後は無事に帰国するだけであった。そのところに先の報告がきた。

忍とは命が無くとも動きが有れば探るものである。情報はどんなものでも集めておいて損にはならない。ならば答えはひとつ。

(一揆鎮圧…農民相手なんて戦にもなりはしないだろうけど…。)

佐助は考えを巡らせる。
魔王討伐の為に同盟を組んでいるとはいえ伊達にも偵察として何人か送り混んである。何時如何なる時も対応に困らぬようにちょっとした保険だ。

当の伊達の当主も承知の上だろうし、佐助も黒脛巾の邪魔にならない程度に数人だけの人員しか配置していない。

(偵察に1人出すか…。)

しかし農民相手と言えどが伊達家当主自ら先陣に立つだろう。何かと気配に敏感なあの竜相手では一介の下忍では直ぐに感づかれて偵察にはならないだろう。

(まぁ、仕方無いやね)

フ、と一つ息を吐くと懐から憑代を取りだし宙に投げる。直ぐ様印を結ぶとそれは瞬く間にに大烏に姿を変え佐助の前に現れた。バサリと大きく翼を広げク?と鳴くと佐助は首を一撫でしてから何事かを告げる。すると烏は直ぐ様空に羽ばたいていく。それを見届けると佐助はトンッと軽い音をたてながら幹を蹴り、次の瞬間には闇へと溶けていった。



********






奥州。
冬の静かな朝には不似合いなバタバタとした騒音が伊達の居住である青葉城に響き渡る。足音は一直線で城にある立派な畑へと向かっていた。


「なんだ、騒々しい…」

土に寝かせておいた立派な大根を片手に竜の右目事、片倉小十郎は目の前で急停止した騒音の主を一睨みする。

「こ、こ小十郎様!!大変ですっ!!」

それに怯む事無く彼は自分の任務である報告を全うする。ここの主従は常に睨みをきかせているような物なので今更誰もそれくらいでは動じなくなっていた。

「何だ?」
「北で一揆が起こりました!それが凄い勢いで!もう何日もせずに国境に到達すると思われますっ!!」
「……確かか?」
「黒脛巾数人から同じ報せがあったそうですから確かかと…」

興奮気味に話す男の声量に耳を押さえつつ小十郎はフム、と頷くと男に持っていた大根を押し付ける。

「あの…?」
「台所へ置いてこい…俺は政宗様のところへ報告に行く。」


それだけ言うと小十郎はさっさと踵を返し政宗の私室へと向かった。




「政宗様」
「An?」

小十郎は政宗の私室に着く前に本人を見つけた。どうやら執務を放り出して庭に降りていたらしい。

「そんな所で何をしてお出でですか。溜まった政務は…」
「A〜sorry sorry,小言は勘弁してくれ。つぅかお前俺になんかようがあったんじゃねぇの?」

姿を見るや否や小十郎は小言を口走る。もはや条件反射とも言えるそれにちっとも悪びれていない態度でそれに答える政宗もお決まりであった。しかし今回は上手く話をそらした政宗に軍配が上がった。

「……報告があります。」
「報告?」

押し黙った小十郎にニヤニヤと嫌な笑いを浮かべていた政宗だが腹心の神妙な顔に良い報せで無いのが解った。

「言え。」
「北で一揆が起きました。かなりの村が参加している大規模な物だそうです。もう何日もせずに国境に到達する勢いだそうです。」
「……最上はアレとしても津軽と芦品は?」
「あそこは長年対立しておりますし急な一揆に対処出来なかったのかと。」
「Ha,だらしねぇな!」
「全くで。」


強気に吐き捨てる政宗だがその顔には陰が見える。片倉はそれに気付いて居たが何も言わなかった。

民のために天下泰平を目指してると言うのにその民に牙を向かれた。しかし民は悪くない。戦の度に被害を被るのは民だ。早く早くと駆け足で来ていたが上の事など解らぬ民は終わりの見えない乱世に絶望していく。

悪いのは何時だって…―

そこまで考えて政宗は頭を振り考えを一掃する。今はそれを嘆く時でも何でもない。今やるべき事それはひとつだ。

「起きちまったもんは仕方ねぇ。国境に来る前に止めさせるぞ。」
「部隊は如何致しします?」
「An…bestmemberで行くぜ。どうせ時期に冬ごもりだ。今年lastのpartyと行こうぜ!you see?」
「御意。直ぐに準備させます。」

片倉は頭を下げてから言葉通りに直ぐに支度をさせるべく踵を返した。その後ろ姿を見送り政宗は空を仰ぐ。


「……………」


忌々しく吐き出したソレは誰にも届く事無く溶けて消えた。



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