昨日猫のマサムネが人の政宗になった。文字通り猫がなぜか人の姿になってしまったのだ。そして人の姿になったマサムネが佐助に「名前に異存は無いが発音が…」と言ってきた結果「政宗」になった。本人曰くcoolらしいが佐助に違いは分からなかった。

それはともかく、佐助は昨日の今日にも関わらずいつもと何ら変わり無く会社の歯車として、と言うか真田幸村のお世話をしていた。社会人とはいえ取り立て裕福でもないので簡単に欠勤するわけにはいかない。
仮に休むと言っても誰が幸村の面倒をみるのだとなかなか許可なんて下りやしない。俺様は旦那の秘書でも何でもねぇっつーの、とお決まりの文句を吐きながら結局朝から晩までキッチリ働いて今は帰宅の真っ最中である。

(政宗は猫の時もお利口だったから大丈夫だとは思うけど…)

やはり訳の分からない状況の政宗を一人家に置いてきていることに心配と罪悪感がある。

少し早足になる佐助の手には政宗へのお土産にたい焼きが握られていた。猫の時だったならばおやつに煮干しなんかを買って帰っていたが今は人の姿である。何だが精神的に猫の物は与えられないし、心ばかりのお詫びの気持ちとどうせなら猫では味わえない美味しさを色々与えてあげたかった。

早々に帰宅した佐助が我が家の鍵をガチャガチャと鳴らしながら家に入ると、今日も玄関の前には政宗がちょこんと座って出迎えてくれた。

「お帰り、佐助」
(ぅわぁぁぁぁっ!?)

今時新妻だって三つ指ついてお出迎えなんてしてくれやしないだろう。いや、実際には政宗は三つ指なんてついてはいなかったのだか佐助にはそう言うシチュエーションに見えた。

玄関の前に佐助のワイシャツ一枚を着て座っている政宗は必然的に上目遣いで。シャツの裾からは白く細い足が惜し気もなく晒されている。そして黒くフサフサとした尻尾が揺れる度にチラリ、チラリと際どい所まで見えてしまう。


……一体何プレイか、これは。


佐助はそっと視線を外しつ無駄に咳払いなんかをしてみた。

「佐助?」
「え、あ、ただいま!」

クイッと佐助のスーツの裾を引っ張る政宗は撫でないのか?と目で訴えてくる。それは猫の時と同じ眼差しだった。そうか。今は人の姿でも政宗はやはり根本的には猫なのだ、と徐にいつも毛並みを撫でるように髪を撫でてやれば気持ち良さげに政宗が目を細め足に擦りよってくる。それもいつもと全く変わらない。

「いい子にしてた?」
「Ya,」

これもいつもと同じ問答。だがしかしやはりいつも通りには事は運ばなかった。上下のスーツをハンガーにかけシャワーに向かう佐助の後ろをとことこと政宗が着いてくる。何度も言うようだが政宗は佐助のワイシャツ一枚だ。

チラリ、ヒラヒラ。

何だか色々試されている気がしてたまらない。何故に君は朝渡したパンツ(新品)とハーフパンツを穿いていないのか。疑問でならないが今ここでソレを言うとそこにばかり意識がいっていると言わんばかりではないかと無駄に邪推して佐助はいつも通りを遂行する。

ワイシャツを脱ぎながら洗濯機のフタを空けていると後ろから付いてきた筈の政宗が隣でジッと見ている。

「どうしたの?政宗」
「なぁ、前から思ってたんだけどコレ何やってんだ?」

何って洗濯…と思った佐助だが相手は人型猫だ。つぶら…とは言いがたいが興味津々と言わんばかりの目で問われれば説明しないわけにはいかない。例え佐助がパンツ一丁であろうとも。(相手がワイシャツ一枚なのを考えたら何ともシュールだ。)

何で?が何のため?になって最終的にはどうやって?と政宗の質問は矢継ぎ早に佐助に降り注ぐ。洗濯の説明だけで一体どれだけの時間をかけたのか。取り敢えず佐助の冷えた身体がそれが長時間だった事を語っている。

「Han…じゃあ、佐助…」
「ちょっと待って政宗。俺様取り敢えずシャワー浴びてきちゃうからアレ食べて待っててくれる?」
「What?」
「たい焼きって言うの。」
「食べていいのか?」
「ん?アレは政宗の為に買ったものだからいぃんだよ。」

「………thanks…」

まだまだ知りたい事ばかりであろう政宗が次の質問に移る前に佐助はお土産に買ってきたたい焼きの袋を思いだし、政宗を促す。いい加減シャワーと言うか風呂にでも入らねば風邪を引いてしまう。ただそれだけの理由だった。まぁ、お土産にはお詫びの気持ちやら何やらが詰まってはいたのだが。

(うっわー!!もう勘弁してよ…っ!!!)

政宗がそれはもう可愛い顔で。意外とハスキーな声でお礼なんて呟くものだから。ぎゅうぎゅうと抱き締めて思う存分撫で回したいと言う欲求を佐助は必死に押さえ付けて政宗の頭を一撫でしてシャワーに飛び込んで行った。


(あーもう。反則…可愛すぎるっしょ…!)

空っぽの浴槽に入り頭から温めのお湯を浴びつつ佐助はヤバイ、ヤバイと1人で悶々としていた。

猫の時ならば思う存分抱き締めて撫で回すのに!いや、自分のペットなんだし、相手は猫だししても問題ないんじゃない?!ねぇ、どうなの?!とまるで天使と悪魔が頭の中で戦いを繰り広げているようだ。

(はぁ……)

結局天使と悪魔の戦いは勝敗のつかぬままに佐助は何時もより時間をかけて風呂からあがった。勿論着ているのは政宗を愛でるためのスウェットである。人型なのだから必要は無いと言うのに気付いたら袖を通していたの。習慣とは恐ろしい。

「おまたせー」
「佐助っ!」

佐助がさっきの悶々とした気配を微塵も見せずに大人しく座っていた政宗に声を掛ければパァァァッと言う効果音が聞こえそうな程破顔した政宗が飛び付いてくる。

それを抱き止めながら問えばたい焼きについて熱く語ってくれた。甘いものが大層口にあったらしい。身振り手振り尻尾をブンブンふりなが興奮気味に話すのがまた可愛らしい。こんなに喜んでくれたのなら明日はケーキにしようかな、等と考えながら冷蔵庫を開け自分の夕飯を用意しようとするが

「佐助ー」

早く座って欲しいと言わんばかりの政宗の態度にほだされ今日はカップ麺でいいやーとお湯を注ぎビールも用意して政宗の横に腰を落ちつけた。

「ちょっ、政宗!?」
「What??」

落ちつけた瞬間今まで隣に座っていた政宗が当たり前のように佐助の膝の上に乗り上げてきた。

どこのバカップルか…!

慌てる佐助をよそに政宗はスリスリと身体を寄せてくる。政宗は未だにワイシャツ一枚なわけで佐助の下半身には肌の感触がダイレクトにくる。

(ぅわわわわ…)

このままでは、ヤバイ。
彼女など久しく居ない佐助は反応しそうな己を情けなく思いつつ何とかしようと試みた。

「ね、政宗。この体勢はちょっと…」
「なんでだ?いつもこうだろ?」

きょとりと目を瞬かせてくる政宗。そうだ。佐助は何時も政宗を膝に乗せて夕飯を食べ、ビールを飲み、テレビを見ていた。本当に習慣とは恐ろしいものだ。

(どうする!?俺様どうする!?これって据え膳!!?)

この美味しいんだか苦しいんだか微妙なシチュエーションに佐助の思考回路は上手く回らなくなってきた。もぞもぞと膝の上で落ちつく所を探す政宗の動きがまた堪らない。

(あ、そうだ。そうだよ。)

「あ、あのさ、政宗。今更だけど何で下穿いてないの?」
「ん?尻尾出すとこ無かったから」


(……あぁ、なるほど。)


今の一言で佐助の中でムクムクと膨れ上がった何かがシオシオと萎んでいった。ひょっとして誘われてる?とか考えてごめんなさい。無償に恥ずかしくなった佐助は誰かに謝りながら政宗にとりあえず降りて?と政宗が傷付かないように優しく言うと政宗に穿かれる予定だったパンツに鋏で穴を開けたのだった。




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