人にはそれぞれ「癒し」ってものがあると思う。それは音楽鑑賞だったり、食べることだったり本当にいろいろだ。

会社の歯車と言うか真田幸村のお世話に翻弄される毎日を送る猿飛佐助、23歳。彼にとっての癒しはひょんな事から同居することになった「マサムネ」だった。

マサムネは元々は幸村が拾ってきたのだが一向に幸村になつく気配がなく、あまつさえ佐助にだけしか己を触れさせようとしなかった。日々奮闘に奮闘を重ねて何とかなついてくれるように幸村は努力をしたがそれらは全て逆効果に終わり、最終的にマサムネは幸村を見るだけで威嚇するようになってしまった。そんなつれないマサムネを幸村は泣く泣く諦めて佐助に命じた。

「お前が責任を持ってマサムネ殿を幸せにしろ」と。

職権濫用な挙げ句に責任転嫁。言ってやりたい事は山程あったが佐助はそれら全てを飲み込み「了解。」と一言だけ告げた。

幸村が勝手に拾ってきて、有り得ないことにオフィスで飼っていたマサムネだったが今までだって殆ど佐助1人で世話をしていたのだ。(なんてたって幸村は役に立たない)世話をするのが自宅になるか会社になるかの違いだ。

それに何だかんだと言っても毎日世話をしていたのだ。佐助だってマサムネが可愛い。了解、と告げるのにそれ以上の理由なんていらなかった。

それから佐助とマサムネの同居生活はスタートした。

マサムネは佐助が会社に行ってる間に悪さをする事もなく、それどころか足音で帰って来たのが分かるらしく毎日佐助が玄関を開けると目の前にちょこんと座ってお出迎えをしてくれる。

佐助が何とも無しに今日の出来事を話せばまるで聞いていますと言うように大きな三角の耳をピクピクとさせながらジッとしているし、佐助が少しヘコンでいるときは何時もは自分のベットで寝るのにソッと布団に入って一緒に寝てくれる。

もう頭もいいし、可愛いし言うこと無しだね!と何の臆面も無く言い放つ佐助は立派なマサムネ馬鹿だった。






「ただいまかえりましたよーと。」

鍵をガチャガチャと鳴らしながら1人暮らしの我が家に入ると今日も玄関の前にはマサムネがちょこんと座って佐助を見上げていた。

(あぁぁぁっ!もう、何この子!めっちゃ可愛いんだけど!!)

柔らかな毛並みを撫でながら佐助は眉を下げ満面の笑みを浮かべる。

「今日も良い子にしてた?」
「にゃあ。」

スーツに毛が付くので抱き上げることはせずに中へ進みながら話し掛ければ律儀に返事が返ってくる。

スーツの上下を脱ぎ、ハンガーにかける。更にワイシャツを脱ぎながら佐助は脱衣場に行き、鎮座する洗濯機へ着ているもの全てを脱ぎ捨てて入れてしまう。分別やら何やらは自分の服は面倒なのでしないという自分の事は変に無頓着であった。そしてその間ずっと後ろに着いてきていたマサムネを振り返り

「シャワー浴びちゃうから待っててね」

と中へ入って行く。

そして15分もすると帰ってきた時にはワックスで硬めてあった髪をペタリとさせた佐助がくたびれたスウェット姿でマサムネの前に現れるのであった。毛がついても気にしない、爪が引っ掛かってもへっちゃらなマサムネを可愛がるためだけのためのスウェット姿。そして二人は小一時間くらいは愛でれ愛でられの時間を過ごす。それがマサムネと同居しはじめてからの佐助の日常であった。


この日もご飯を食べ、マサムネを膝に乗せて撫でながらテレビを見て。ビールを飲みダラダラと過ごして就寝する。何時もと何ら変わり無い日を過ごし寝る前に明日は休みだし何しようかな、なんてベッドに入ってから考えてた佐助の元へマサムネが来た。

「アレ?珍しいね、一緒に寝るの?」

掛け布団を捲るとスルリと中へ入り、佐助の右腕に頭を乗せる形で丸くなる。何時もは自分のベッドなのに、今日は寒いのかな?と不思議には思ったがぬくぬくと温かいマサムネの体温に佐助はいつの間にか眠りの縁へと落ちていった。





・・・・・

ぬくぬくとと温かい布団に顔を埋めると佐助は違和感を感じた。どうにも身体締め付けられていると言うか。

(なんか抱きつかれてる…?)

まさかな、と思いながらまだまだ重い瞼を無理矢理開けて布団を捲るとピシリ…とでも音が出そうなくらい佐助は見事に固まった。

布団の中というか佐助の腕枕で佐助に思いっきり抱きついている。

見知らぬ、……全裸の男が。


「えぇえぇぇえーッッッ!!!?」

爽やかな朝に不似合いな佐助の近所迷惑他ならない叫び声は両隣三件先まで響き渡った。チュンチュンと爽やかな朝を演出していた雀もバサバサと飛び立っていってしまった。

「An…?佐助、ウルセェ…」
「あ、スイマセン」
「No,problem…」

当然のように佐助に抱き着いて寝ていた青年も佐助の叫び声で目を覚まし、不機嫌そのもので文句をつけてくる。誰だって健やかな眠りを異常なほど大きな叫び声で妨げられれば不機嫌になるに違いない。思わず佐助が素直に謝ると青年は流暢な英語で問題無いと言い放ちまたとろとろと瞼を閉じてしまった。眼光は鋭いがなかなかに男前だった。

(って、そうじゃねぇーよ!!何、俺様素直に謝っちゃってんの!?ちょ、ちょっと!!誰!?この人誰なの!!?何で俺様の名前知ってんの!?つーか、それより何より何で全裸!!?俺様服着てんのに何でこの人全裸ぁぁぁあっ!!?)

何回布団を捲って見てもどうみても全裸の男前の青年が佐助に抱き着いて健やかに寝ていらっしゃる。だけどこんな人全く知らないし、昨日は家で飲んで寝たんだから誰か連れ込む事も有り得ないし…。佐助はぐるぐると昨日の記憶を辿ったりしてみるが全く心当たりが無い。

(あ、そうか。これ夢?!もう一回寝れば良いんじゃない?!)

そして遂にこの異常事態に佐助の脳味噌は考えることを放棄してパタリと倒れこみまた布団に潜ってしまう。これはきっと夢だ。もう一回起きたらきっとこの裸族の青年も消えているに違いない。、と。

しかし、現実は時に無情であると佐助はすぐに思い知る羽目になるのであった。


・・・・・

ザリ…、と頬を舐められる感触に意識が浮上する。あぁ、そうだマサムネにご飯あげなきゃと佐助はボンヤリとした頭で考える。カーテンの隙間から届く陽はもう大分高い位置にありそうだ。寝すぎたかな、と思いつつも自分を起こしに来てくれた可愛いマサムネを一撫でしようと手を伸ばす。そしてそのまま艶やかな毛並みを撫でる予定だった佐助の手はガシリと誰かに捕まれてしまう。

「え…?」
「Good morning,佐助…腹減った」

予想外の感触に布団から顔を上げて見れば先ほど夢にした筈の裸族の男前青年と目があってしまった。

(嘘だろぉぉぉぉ……)

ガックリと項垂れた佐助にキョトリとした顔をして首を傾げた青年はもう一度小さく腹減ったと呟いていた。


・・・・・


「えーっと…ちょっと良いかな?」
「?」

ムグムグと佐助が作った炒飯を不器用にスプーンを握りしめながら食べている青年に佐助は恐る恐る話し掛ける。こうやって二人で向き合ってご飯を食べるに至る前に本当は不法侵入の変態だと追い出すなり通報するなりの対処の仕方もあったのだが佐助はそうしなかった。

理由としてあげろと言われれば、不法侵入の泥棒ならば佐助を起こす必要など無く金目の物だけ盗っていけば言いわけだし。そもそも同じ布団に入ってた時点でそれはない。

かといって、ただの変態で佐助に気があるならもう既になんかしかのアクションがあってもいい筈。と、まぁこんな取って着けたような言い分はともかく。

佐助がこの青年を追い出さなかったのはまさか、とは思うけど。でも多分っつか、絶対?

「マサムネ、……だよね?」
「Ya,」

即答だった。
そうかな?とは思ってはいたけどやっぱり。否定して欲しかったんだか、肯定して欲しかったんだか。それは佐助自身もよく分かってはいなかったが、とりあえずあり得ない事が現実におきてしまったと思う。
「全裸」と言う事実に気をとられ過ぎて最初は気付かなかったが、よくよく見てみると目の前の青年の頭や尻には佐助が見慣れた愛猫の耳と尻尾が生えていたのだ。散々愛でている愛猫だ。間違う筈もない。そして偽物でもない。

青年は先ほどまで全裸だったのだ。(因みに今はシーツでぐるぐる巻きである。なんか着てと言ったけど服を着たこと無いんだってさ)

そしてそこに尻尾が生えていた。
人間の身体に尻尾なんて有るわけ無い。

佐助は見たものしか信じない主義だったが、こうして現実に自分の目で見てしまったのだ。と来たらこれはもう信じるしかないじゃないか。

「あのさ、どうして人の姿になってるの?」
「………佐助は人の姿の俺は嫌か?」

とりあえず当たり前にある疑問を口にすればギュッと眉間に皺を寄せて質問に質問で返された。

正直に言えば猫を飼ってるより食費とかなんか色々かかりそうだし、この状況事態がもう既に面倒なんだけれども。

けれども、上目遣いで見てくる不安そうな眼差しや、ペタリと垂れてしまっている三角の大きな耳。プルプルと小さく揺れる尻尾もすべてが佐助の「可愛いマサムネ」なのだ。

「…嫌じゃないよ?マサムネはマサムネだもの」

そっと手を伸ばしていつも毛並みを撫でるように髪を撫でながら微笑めばマサムネも安心したように佐助に微笑んでみせた。

「良かった…」

マサムネはポツリと呟いた。そして二人の間にはいつもの愛でれ愛でられのほんわかとした空気が流れる。

佐助はマサムネの髪を撫でながら感触が猫のマサムネの毛と同じ事に僅かばかり安心し撫で続けていると不意にマサムネが佐助の手に頬を擦り寄せてきた。それはマサムネがよくやる行動で喉や顔も撫でてほしいと言う主張だ。そうよくやる仕草。

(うわ……)

しかしそれはマサムネが猫の時にする仕草なのであって今のマサムネは人の姿である。

うっとりと目を細め顔を僅かに桃色に染めたマサムネが佐助の右手にスリスリと甘えてくる。

それはマサムネにしたら普段通り甘えてきているだけなのだろうが佐助には何とも破壊力抜群であった。思わず赤くなっていく頬を自覚して佐助は頭を抱えたくなった。


(この子可愛い過ぎ……)


猫の時にも同じ事を考えたが今の方が数倍可愛い…。

猿飛佐助23歳。
気付かぬ内に危ない道に走り始めた休日真昼の出来事であった。



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