ザアザアと降り注ぐのは天からの贈り物。地球や農家にとっては優しい筈のその雨は、今の自分には些か厳しすぎた。朝、何となく見てたTVのお天気お姉さんは雨が降るだなんて言ってなかったつの。なんて思わず脳内で1人愚痴るも傘なんて気のきいたものを持ってる筈もなく、冷たい雨は容赦無く体温とやる気。いや、なんかもういろいろと根こそぎ俺から奪っていく気がする。

チラリと携帯を見れば約束の時間なんて軽く30分以上は過ぎている。過ぎている挙げ句に連絡の一つも無い。何なんだろうか。待ち合わせする度に毎回遅刻するアイツは一体全体何なんだろうか。むしろ何様だ?言ったところで俺様だなんて言われた日には本気で殺りかねないから口に出したことはないのだけれど。そんな俺はなかなかに懸命だと思う。



ザアザア、ザアザア。

耳につく雨音は止まること無くより一層勢いを増している。降り続ける雨に目をやって我ながらデカイ溜め息を吐いた。きっと今の溜め息で宝くじ一万円くらいの幸せは逃げたと思うから後で請求しよう。

駅前、時計台の下だなんて待ち合わせにうってつけの場所は屋根なんて勿論有るわけもなく、仕方無いからその真ん前にある店の軒下に居座ってジッとその場を見つめてるわけ。まぁ、人1人居やしないんだけど。当たり前ったら当たり前。雨が降っているのだから。しかも、豪雨とかスコールとかそんな名称がつきそうなほどのもの。つまり、俺が言いたいのは約束した人物がチラリとも姿を見せる気配が無いっていうそう言うことだ。

どっかで雨脚弱まるまで休むとかそんなん理由だったら連絡くらい寄越すだろう?勢いよすぎる雨のお陰で避難してるにもかかわらず濡れてしまったジーンズからやっぱり濡れてしまった携帯を見れば連絡はやっぱり無いままもう1時間がたってしまった。


また寝てんの?

まさか事故ってねぇよな?

取り敢えず来たら殴ろう。

いい加減寒いっつの。

早く。

早く。早く。

面見せろよ。

責任とって暖めろよ。

バーカ。バーカ。



ツラツラと浮かんで消えるくっだら無い思考。どれもこれも、それこそ全部がアンタの事だなんて本当は俺の方が大馬鹿すぎる。



折角朝セットした髪もすっかりウネウネになってるし、気分もあり得ないくらい沈みきったし、そろそろ帰ってもいいんじゃないだろうか。そう思いながらズルズル待ち続けてもうすぐ2時間。本気で風邪引きそうだっつの。むしろ引く。


カチッと時計台の短針が約束の時間から2時間たったことを知らせる。雨の中時計の凝った細工は1時を示しながら動いていて。お勤めご苦労様。なんてぼんやり眺めてから暫くは会ってやんねぇと心に決めて帰ろうと踵を返す。勿論見るに耐えない濡れ鼠。祈るのは携帯のメモリーの無事のみだ。



ザアザア、ザアザア。



「…凌、統…っ!」



ザアザア、ザアザア。



耳に届く雨音。
そんな中どっからか聞こえてくるのは多分自分の名前。認識して振り返ろうとする前に降り注ぐ雨が遮断されて追って冷たい手に腕を捕まれた。


「アンタッ…!今頃来てっ……!!」

「悪かった!!!」


さすがに文句の一つや二つ浴びせてやろうと今度こそ振り返って見れば目の前には自分と同じくらい濡れ鼠状態で泣きそうに顔を歪めて謝るアンタ。


傘持ってるくせに。

悪いのもアンタの癖に。

凄く必死な顔して項垂れるなんて。

格好悪くて、卑怯すぎる。

「……凌統…?」

「………帰るぞ。風邪引いちまうっつの。」

「痛っ…。」

何も言わない俺を伺うその情けない面にデコピンを喰らわせてからまた歩き出した。

一杯、一杯文句を言って、殴りたいくらい怒ってたのに。あんな顔されたくらいで文字通り水に流せる俺って本当に救えない。


「おい、凌統…。悪かったって……」

「……………。」

デカイ図体のくせして後ろをちょこちょこ付いてくるアンタを一瞥してまた無言のまま歩く。

家に帰りつくまでは口は利いてやらない。それぐらいの報復で許してやるんだから破格だと思うぜ?



気づけば上がった雨。晴れた空の下、雨音の変わりに情けなく響くアンタの声を聞きながら気づかれないようにヒッソリと笑った。













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