浮かべた笑みは見慣れない物でひどく騒ついた。
最近続いた任務はやけに俺とこいつの距離を広げたものだったんだなと実感して思わず舌打ち物だ。

「よぉ、恋次。随分久し振りだな」

かけた声は思ったより低いもので自分で考えてる以上に不機嫌さを露にした。
とっくに気配なんて察知してだろ?なんでこっちに顔を向けねぇで肩なんか竦ませてるわけ?
言ってやりたい事は次から次へと湧いて出る水みてぇに溢れてくるけれどそれは全部飲み込んだ。それより何より。

なぁ、なんでそんなビビってんの?

「…すんません。言い訳って訳じゃねぇんすけどあっちも中々忙しかったもんで、連絡ひとつ出来なくて」

やっとこっちを見た面は目も宛てられねぇくらいの情けねぇもので。極めて明るく言い放つ言葉は不自然過ぎる。さっき見かけた笑みも、今目の前にあるこいつも。なんだってんだ本当に。

「誰もそんな事怒ちゃいねぇよ」

「っ…」

今度こそ本当に舌打ちを鳴らしてしまった。
なぁ、なんで?

「言いてぇ事あんならはっきりしろよ」

「や、何でもねぇっす」

逢えば触れたがる甘えたが近付きもしねぇ。
それどころか目も合わさねぇ。
口を開けば望む物とはまったく違うもの。

「・・・もういい」

握った拳に力が入って殴りかかりたい衝動に駆られる。奥歯はギシリと鈍い音を立てて血が沸騰しそうだ。
けれどそれ以上に自分が滑稽でちっぽけで馬鹿らしくなった。

「ちょっ…先輩待って」

横を通り過ぎようとした腕を捕まれた。振りほどこうとしてもびくともしないその腕が尚更。

「離せっ!」

苛ついて。どうしようもなく苛ついて。縋るように掴んだ手は強いくせに眉尻を下げた見慣れない顔はそのままで。

「なんで!なんでテメェは何も言わねぇんだよ!?情けねぇ!!役にもたたねぇで帰ってきて、弱音吐きてぇんじゃねぇの?甘えてぇんじゃねぇの?挙げ句にただいまの一言も無し!!目も合わさなけりゃ、くだらねぇ事ばっかり言いやがって!何様だこの駄犬!!」

叫んだ後にきつかったかと思ったけど後の祭りだ。かまいやしねぇ。揺れた瞳や震えた指先がやっとお前らしくて安堵したから。

「……無理してんじゃねぇよ。馬鹿野郎が…」

掴まれた儘だった腕を引いて抱き込んだ筋肉質な筈の身体が、肩に埋まる赤の絹糸のような髪が愛しい。


「ただいま、修兵」

「おぅ」

潜もった声は聞きにくい程に小さいものだったけれど漸く呼ばれた名前に綻んだ。

「遅ぇよ。馬鹿犬」

馬鹿で素直でがむしゃらで。挙げたら限りねぇくらいにどうしようも無い野郎だけどそれでも全部受けとめてやるからよ。

「ひっで!!」

「毎度の事だ」


上げた顔は何時も通りの馬鹿面。あぁ、やっぱそっちの方がテメェらしい。

「なぁ、恋次。俺相手に空元気なんて誤魔化し二度とすんじゃねぇ。」

「…了解」


合わせた唇はひどくガサガサ。味わうのは久々の互いの熱。燻り続けた苛立ちは漸く鎮火した模様。









元気程苛立つものはない




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