最初は親父を殺したアンタが憎くて嫌で嫌で仕方なかった

だから目を逸らして視界に映さないようにして、声を聞くのも耐えられなくて耳を塞いでいた


笑う姿が誰かを呼ぶ声が苦しくて痛くて逃げ出してしまいたかった



なのに、どうして…




「どうしてかねぇ…」

「は?いきなりなんだよ」

ぽつりと洩れた言葉に甘寧は酒を運ぶ手を止めて怪訝そうな顔を凌統に向けた。

「そう恐い顔しなさんなって。ただ何で俺は此処で今アンタと酒呑んでんのかなーと思っただけ」

「この顔は生れ付きだ。つーか何を今更…花が咲いたら花見って前から言ってただろーが」

そう言って杯をまた一口煽る甘寧の肌は酒気によりほんのりと赤く熟れている。額当てを外したせいで下りた前髪がさらりと飲過の動きによって風に踊る様を見て凌統はごくりと喉を鳴らした。

本当に可笑しな話だと苦笑するしかない。何時から甘寧と当たり前のように酒を交わす約束をし、何時から甘寧相手に欲情するようになったんだろうか?

「おいおい、大丈夫かお前」

「ぁ?」

不躾なまでに甘寧に視線を絡めたまま酒を呑む手はもちろん動きが止まっていた。それを不審に思ったのかひらひらと目の前で手を振って居る甘寧の目はやはりどこか楽しげだ。

「なんだ?もう酔ったか?」

「…まさか」

ひらひら揺れる手を自分の右手で捕らえてひっぱれば簡単に保たれ掛かってくる身体。額に口付ければやはりひどく楽しげな儘の視線とかち合った。

昔は視線が合うだけで気持ち悪くなったもんだったのに…今はこんなに気分が高揚する。

「っふ…ん‥」

酒で濡れた唇に誘われる儘に舌を這わせて塞げばより一層に拡がる味にやっと酔った気になってきた。

「…っ…‥ぁ…」

上顎から歯の裏に舌を這わせて逃げる舌先を突いてそねまま吸い上げてやる。存分に味わってからやっと解放してみれば一段と艶を増した姿。

「随分誘うの上手くなったよね…」

「誰のせいだよ」

「まぁ俺のせいだけど」

もう一度軽く口付けて後ろから抱え込むように抱き直す。一切の抵抗は見せずされるが儘に髪を梳かせる甘寧と壊れ物でも扱うように触れる自分の指先にまた微苦笑がもれた。

「何笑ってんだよ?」

「なんでも無いっつの」

すべては無意識からくるもので。

憎くて嫌で嫌で仕方なかったはずなのに

目は何時しか姿を追い掛けて、視界はアンタでいっぱいで

声を聞けば顔が綻んで、一言一句零さぬ様に耳を傾ける


笑う姿は愛しくて、誰かを呼ぶ声は腹立たしくて思わず邪魔しに行くほどだ



「まぁったく空回りだ」

「あー?さっきから何の話だよ?」


髪を梳く手が心地いいのかうつらうつらと舟を漕ぎだした甘寧の頭を膝まで移動してやりながら自重すれば眠そうな目を凝らしながらさっきから変な顔して訳分かんねーとぶつぶつ可愛くない事を呟いていて。

だからと言って嫌いだからと取っていた行動は結局全部空回って、今じゃ全部正反対と言っても過言じゃないことばっかり。その事にふと気付いて自分の痛さ加減にちょっと自重してましたなんつぅ事をわざわざ説明する気なんて更々無くて。

真下にある顔を覗き込みながらとっときの笑顔と声で。


「まぁ、アンタが大好きだっつぅ話だよ」


「………ば、ばっばっっっかじゃねぇの!!!?」




盛大に叫んだ音量は鼓膜を破るんじゃないかと本気でうたがったけれど。まったく俺も甘くなったもので。
可愛らしく真っ赤に染まるアンタと花が見れたから。空回りだってなんだって、今が良ければそれで良しって事にしておこうと思った。









すべてが回り



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