指先が触れられた処からじわじわと熱を孕み、思考が緩やかに溶けていく。特有の痺れるような感覚は嫌いではないけれど、何も考えられなくなるほどになる自分に深く落ち込むしかない。情交なんてそんなものだと割り切れないのは全部、全部が今俺の目の前に居るコイツの所為。
見上げた先には恐ろしいほど整った顔。瞳は冷めたままで薄く赤い口唇は何も紡がずに弧を描く。
「……っ」
息を呑む。見据えられ、歪められた口元から舌がチラリと覗けばゾクリとしたものが背筋を這い上がっていく感覚。覗いた舌が意志を持って首筋や耳へ触れれば勝手に洩れだすのは耳を塞ぎたくなるようなものばかり。
「…ふっ…」
肌を滑る舌はひどく熱いのに時折当たる口唇は何故か冷たい。吐息も指も足もどこもかしこも互いに熱いはずなのに決して交わる事の無い唇だけは死んでるみたいに冷たくて、溺れてんのは俺だけだと言われてるみてぇで胸くそ悪い。
「…ぅあ‥」
出したくない声。俺だけ乱れる呼吸。流したくもない涙。絡む視線はぼんやりとして輪郭さえも曖昧だ。至近距離で音も無く口唇が動いたけれど読み取る余裕なんてあるわけなくて。
悔しさ、もどかしさ、いろいろ、いろいろ降り積もる。
好きだ。 大好きだ。
愛してるよ馬鹿野郎。
言いたいけれど言える訳もなく、呑み込むばかりの俺の言葉。
交わるのは身体ばかりでいつでも心は渇いた儘だ。
お前の唇は愛は疎か戯言も名前さえも紡がない。
俺だけに冷たいその唇。
訪れる事の無い冷たい接吻。
どうせいつかは俺じゃない誰かの熱で浮かされ愛を語るんだろう。
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