いつの頃からだろうか。
思い返してみてもまったく見当が付かない。まだなのかもうなのか良くは分からないが、22年。それだけの時を生きてきて自分は仮面を幾つも作り上げていた。




「景虎様。お茶入りました」

鮎川はにっこりと笑って執務中の俺の横にそっと茶托を置いた。礼を言ってから両手で包めばじんわりと温かさが広がる。そのまま口に含めば甘味のある玉露の味に自然と顔が綻んだ。

「美味いよ」

思ったまま口に出せば鮎川もまた微笑む。聞けば京から取り寄せた宇治の新茶らしい。口にあって良かったと、そのまま退室しようとする鮎川をなんとなしに引き止めて、茶菓子や他の面子の話等に花を咲かせて休憩を楽しんだ。

結局急ぐ仕事でも無かった事からダラダラと過ごす内に高かった日も傾きはじめ、そろそろ夕飯を作ってきますという鮎川をさすがに止める事もせず「美味いの頼むぜー」と軽口を叩いて見送る。

「・・・・・」


トタトタと軽い足音をたてて去っていく後ろ姿を無言で眺めた後に我ながらデカイ溜め息をついた。

自分で望んで一緒に居たというのに口から出たのは溜め息。

鮎川は好き嫌いで言ったらもちろん好きだし、それ以前に大事な家臣。けれど二人で居るのは実は苦手だったりする。矛盾が生じてるのは分かっちゃいるがどうしようもねぇ事だと思う。

「アレは特別だぜ?」

「知ってる」

不意に聞こえてきた第三者の声。居るのは気付いていたから驚くこともない。

「いいか?」

「どーぞ」

まったく主語が無い会話なのに意味が通じるからまたコレもどうかと思う。

スッと障子を空けて私室に入ってきた影を見やれば澄んだ蒼の独眼と目が合った。

「なんかあった?」

「まぁ。大したことじゃないけど。出張報告?」

「ふーん。ご苦労さん。」

そのまま中に促して広げていた書類の上に突っ伏つした。くしゃりと音を立てた気がしたけれど聞こえない振りをしておく。

「・・・何。へこんでるの?」

「あー…?…へこんじゃいないけど、何か複雑。」


目の前に座った政宗に視線だけ上げて笑う。そしたら眉間に皺を寄せられビシリとデコに一撃を食らった。

「ぅぐぁっ…」

思わず変な声が上がって睨み付けたら「変に笑うよりその方がらしいよ」と笑われた。食らった一撃はかなりの威力だったけれどやった本人のその顔は何とも優しげでうっかり照れてしまいそうになるがぐっとこらえる。

「そんなの、分かってるよ」


多くの血で染めたこの手。大義名分振りかざしてやってる事は人殺し。上手く生きてここ迄育つ内に人の顔色伺う事が得意になった。自分が誇れることなんて一個も持ち合わせちゃいない。
こんな俺がろくに動きやしない表情筋をなんとか動かして作った笑みで、あんな純粋な微笑みなんかに太刀打ち出来る訳もない。

「言われなくても」

「そう?アンタはアンタ。アイツはアイツ。無理はしないが一番って事。」

「・・・ご心配傷み入ります」


「どういたしまして。」


今度は自然に苦笑が洩れた。うちのお医者様は随分と優秀だ。一緒に居たら白くなれるかな?なんて馬鹿な考えすらあっさりと見抜いてる。そんな事ありえない。自分だって分かってるだけに馬鹿らしくなってくる。

まぁ、それでもとりあえず感謝の気持ちは嘘じゃない。今はまだ上手くないけどいつかはきっと。










(創り続けた仮面も壊れ散るだろう)

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