二人しか居なかった習練場。激しく打ち合った手合せの後壁に背を預けて座るオマエ。
息を正す口元に目をやれば淡く色付いた唇に誘われて不意に噛み付く様に口付けをした。
「んっ!?」
引き剥がそうとする手を片手で捻伏せて、呼吸の為に開いたソコから舌を差し込み中を貪る。
「…っ‥うっ…」
漏れる声と伝う唾液が更に欲を煽って腰に手を回そうとした瞬間
「痛っ…!」
鈍い痛みと口内に広がる鉄の味。
「テメッ!噛んでんじゃねぇよ!」
「なっ!アンタが悪いんだろ!?いきなり…口付けなんて‥してくるから…」
たまらず怒鳴れば直ぐ様に非難の言葉を頂いた。が、それは段々に勢いを無くして最後の方なんて聞こえなくなっていた。
可愛い奴だななんて先程の怒りなどあっさり忘れて思わず唇で笑えばやはり不満らしく更に非難。
「何笑ってんだっつの!アンタ一体どういうつもりなんだよ!?」
「…どういうって…好きだからしたんだけど?」
捲し立ててくる凌統にさっくり言えば肩を震わせ俯いちまった。
「おい…?」
泣いてんのかと震える肩に手を触れようとしたらパシンと空を切る音。払い除けられた。
「触んな!…っ‥アンタは酒も女も戦も…何でも好きだって言うじゃないかっ!」
吐き捨てるように叫んで、そのままバタバタと走り去っていく後ろ姿をこういう場合追いかけたほうがいーのかななんて事をぼんやりと考えながら目で追った。
けど追い掛けて行って掛ける言葉が見つからねぇからそのまま見送った。
だって言っちまうにはまだ早い。
憎悪に満ちたあの目が俺の一挙一動で揺らぐのが楽しいんだ。
そう、憎悪が愛情に変わるまではまだ早すぎる。
いつかアイツが完全に俺に溺れて、俺無しじゃ居られぇぐらい依存したら。
その時に嫌って程聞かせてやるよ。
「愛してる」
って押し付けがましい呪縛の言葉をな…
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