tuiki
物心ついた時には、自宅のトイレ以外に行くのを躊躇う子になっていた。

私は幼い頃から祖母と住んでいて、この祖母が大の掃除好きだった。とにかく家中を綺麗にしておかないと気が済まない性分で、とくに風呂なんかは使い終わったあとに全ての水滴をタオルで拭き取るほどだった。

そういう環境で育った私は、自宅の水周りが異常な清潔さであることに気づかず、そう、よそのトイレに行けなくなっていたのだ。
これは大問題である。幼稚園年少になった私は、幼稚園のトイレに行けない。今思えばそこそこ綺麗な幼稚舎であったが、私には難しかった。

まず便所スリッパを履くのが嫌だった。トイレが薄暗いのも床がタイルなのも嫌だった。和式なんてものは論外である。用を足すなら洋式一択であったがそれもそれで無理であった。

困った私は自然とトイレに行かないようにした。まず水はあまり飲まない。家でトイレをしてから幼稚園に向かう。そしてとにかく我慢。我慢に我慢に我慢である。大体幼稚園というのはそんなに長くない。せいぜい昼過ぎにはお迎えが来る。それまで耐えるというのが私の毎日のミッションであった。

私は家が近く徒歩通園だったので、ひいおじいちゃんが毎日迎えに来てくれた。ひいおじいちゃんと手を繋ぎ坂を下って帰宅する毎日。しかし私の膀胱は限界だった。漏らす私。慌てるおじいちゃん。横を通り過ぎる幼稚園バス。坂を下る尿。
それはいつも、幼稚園の先生に送り出され、その姿が見えなくなるくらいの時に起こった。緊張していた膀胱がお迎えによって崩壊するのである。

私は毎日漏らしていた。親に「幼稚園でトイレに行きなさい!」と怒られても。ひいおじいちゃんが慌てふためき可哀想でも。私は毎日漏らしていた。正直そんなに尿意がないときもあったが、日課だったので空気を読んで漏らしたりもしていた。その頃から馬鹿だったのである。

その後少しずつ水周り潔癖症は改善していった。そもそも尿まみれになるのは良くて幼稚園のトイレは嫌とか意味がわからない。
吐きそうになりながらも頑張って市民プールにも行ったし、小学校のトイレはもっと汚かった。幸い中高は私立でトイレが綺麗だったが、大学は国立で終わっているほど汚くゴキブリが出た。生きるにはトイレに行くしかなかった。

今も微妙に潔癖症である。彼氏の家の風呂とトイレはカビキラー2本使って掃除したし、水もあまり飲まないし、トイレに行く回数も人より少ないと思う。最近水を1日2L飲む美容が流行ってるが、それが苦痛すぎるくらいには水を受け付けない体になっている。しかしいいことが一つだけあるとしたら、膀胱が強すぎる。本当に膀胱が強いのだ。3時間映画にも全然耐えうる膀胱。
昔頻尿の友達が膀胱を鍛えるためには努力と訓練が必要だと語っていた。スマホのバッテリーと同じで徐々にタンクに入る総量が下がっていくのだと。その点私の膀胱は最強らしい。
こんなことで最強になっても戸惑うが、毎日漏らしたことも無駄じゃなかったのかと思うなどした。
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