「お!雪男じゃん」
「シュラさん。こんばんは」
昼間から飲んだくれていたシュラは、酒を買い足すためにコンビニを訪れた。そのコンビニの弁当コーナーの前で雪男を発見。シュラの声に雪男は軽く会釈を返す。シュラは雪男に近付き、そのカゴの中を見て首を傾げた。
「なんで弁当?しかも一人分。燐はどうした?」
「兄さんならしえみさんと出掛けましたよ。なので今日の夕飯は一人です」
「あー今日クリスマスだもんなぁ。んで、おいてけぼりくらったんだ?」
にこりとまるで営業スマイルを浮かべる雪男だが、シュラはそれを全く意に介さずからかうような口調で雪男を突っついた。しかし、雪男はそれに感情を動かさない。シュラがからかうのは目に見えていた。
「おいてけぼりもなにも。僕には関係ありませんし、僕は僕でやらなければならないことがありますから」
「んなこと言って〜ホントはさみしいんだろ?羨ましいんだろ?うりうり」
「しつこいですよ。あと、つつかないでください」
つんつんと腕でつついてくるシュラを、払いのけはしないものの迷惑そうに見る。しかしそれでもシュラはからかうのを止めそうにない。にしし、といたずらっ子のように笑うと腰に手をあて、上目遣いで雪男を見上げた。
「オネーサンが慰めてやろっか?」
「いりません」
「……んだよ、つれにゃーい」
バッサリと斬り捨てられた。まあ、分かっていた反応ではある。シュラはつまらなそうに肩を竦め、上目遣いの姿勢を止める。
「てゆーかお前、ホントにクリスマス一緒に過ごすヤツいないのかよ。学校じゃ女子にモテモテって燐に聞いたけど?」
「モテてませんよ……まあ、お誘いはいくつかもらいましたが、お断りしました」
「勿体無い。行きゃあいいのに」
「…………………」
なんだろうか。さっきから聞いていれば、まるで自分を一人にさせたくないみたいに。そんな風に雪男には聞こえてしまう。シュラにそんな意図があるのか分からない。だけど、ほんの少し。その意図があってもなくても、嬉しいと思った。それを言うと調子に乗るだろうから言わないが。
「おーい、ビリー?」
「………あ、はい。あ、いえ、誰ですかそれは」
「ビリーつったらお前に決まってんじゃん」
「僕の名前は奥村雪男です」
「知ってるけど?」
「…………………」
このままではそのあだ名が定着してしまう。しかし、何故か呼ぶ声に反応してしまう。それは彼女の声を少しでも心地好いと思っているからか。昔からの知り合いだから。それとも、もっと違う理由からなのか。
「おーし、ビリー!!アタシの酒に付き合え!!上司命令!!」
「ビリーって誰ですか。知りません。きちんと呼んでくれなきゃ返事しません」
「…自分のことだって分かってんだろ……いいから付き合えよ、雪男」
「………仕方ないですね」
ぷいっと子供のように顔を背けてしまった雪男。シュラはそれを呆れたように見ていたが、言われた通りに名前を呼んだ。すると雪男は、顔を背けたままため息を吐く。その様子はシュラが我が侭を言ったように見えるが、シュラはそれを気にせず自分の腕を雪男の腕に絡めた。
「んじゃ、酒とつまみと晩飯代はお前持ちな」
「なんでですか」
「今気付いたんだけど、財布忘れちった☆」
「………そのコートのポケットからはみ出てるものはなんですか」
「…チッ!!バレたか」
「バレたか、じゃないですよ全く」
財布の存在を気付かせないように腕を絡ませたようである。しかし、雪男には通じなかった。企み失敗という顔をするシュラに、雪男はまたひとつため息。そしてシュラの持つカゴの中身を自分のカゴに移し始めた。
「雪男?」
「…今日だけ、ですよ」
クリスマスプレゼントです、と雪男は微笑む。それに面食らったようにシュラは目をぱちぱちと瞬かせたあと、ふっと笑みを溢した。そして雪男の頭を強引に撫でる。
「ちょっ、なにするんですか!?」
「生意気メガネにシュラ様からのクリスマスプレゼントだ!!」
ぐりぐりと髪の毛を弄るシュラと止めさせようともがく雪男。その様子が他人の目にはどう見えているのか。二人は知るよしもなかった。
They looks as if
(姉弟?友人?それとも?)
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