あの日のように、ざあざあと雨が降っている。厳かで寂しげで重い空気が支配している多くのヒトが永久の眠りについている場所。そこに派手でファンシーな服装のカラフルな傘を持った人物がいた。花を手向けることも祈りを捧げることもせずに佇み、不意に笑った。
「貴方はもっと…それこそウザイくらいにしぶとく生きると思ってたんですがねぇ」
懐かしむような口調で、しかしどこか劇的に歌うように言った。そして、どこからともなく椅子を取り出して無遠慮に座り込み足を組む。異様な光景だが、わざわざ雨の日にその場を訪れる者はおらず、彼を咎める者は皆無だった。
「いやはや、貴方が育てたアレはなかなか面白い。任せて正解でしたよ」
愉しそうに唇を歪める。思い出すのは人間の女と虚無界の王であり父でもあるサタンとの間に生まれた末弟。あの雨の日の宣言は、今思い出しても腹が捩れるほどに笑える。
「貴方はアレを聞いたらどう思いますかな?」
問い掛けても当然、答えは返ってこない。しかし、返事を待つかのように黙り込む。雨の音以外には、何もない静寂。そうして暫くしていると、足を組み直し緩慢な動きで指を宙で振った。
「1、2、3☆」
ぽん、とその場に可愛いらしい音が響く。ぱさりと手に落ちてきたのは、眠っている故人には似合わないカラフルな花束だった。立ち上がって椅子を消し、そっと花束を置く。
「これからは私が貴方に代わってアレを育ててあげましょう」
そう……私の楽しい愉しい遊戯〈ゲーム〉の為に。その言葉は音にせず、上機嫌に笑った。事態は緩やかにしかし急激に動いている。舞台は作れても展開は予測できない。果たしてアレは満足できる武器になってくれるだろうか。不気味な笑みが顔に広がる。
「…と、いけない。用事があるので私は失礼しますよ」
わざとらしい動きで時計を確認すると、これまたわざとらしい紳士的なお辞儀をした。そしてくるりと回転し、歩き出す。
「さぁて…どんな楽しいゲームになりますかね☆」
そう誰にともなく呟いてその場を去った。その彼の後ろ姿を、手向けられた花束と物言わぬ冷たい墓がじっと見守っていた。
墓前にて百日草を捧ぐ(亡き友を偲ぶ雨の日の午後)←