小説 | ナノ
4.燐しえ(ちょっと未来)




「なあ…しえみー」

「なあに?燐…て、きゃあ!?」



どんがらがっしゃーん!と大きな音を立てて調理台から調理器具が雪崩落ちた。燐は大きくため息をつくと、床にしゃがみこむ。



「やっぱり、俺が作るって。お前料理下手だろ?」

「へ、下手じゃないもん!少しは上達したよ!」



しえみもしゃがんで燐と一緒に転がった調理器具を拾い集める。燐にズバッと言われたしえみは頬を膨らませるが、燐の視線はコンロの鍋にあった。



「……鍋から何故か火と煙が上がってんぞ」

「え?うわあ、焦げてる!」

「焦げてねぇよ。燃えてるよ」



どうやったらそうなるのかは分からない。煙はうっすら紫で、いつかのようなエキセントリックなにおいが漂っている。しえみの料理の腕はあまり上達はしていなかった。



「まあ、下手なのを自覚しただけマシか…?」



鍋と格闘するしえみを頭を掻きながら燐は呟いた。数年前、胸を張って持ってきたあの味を燐は忘れてはいない。寧ろトラウマだった。でも、しえみなりにしている努力を無下にできず、夕食作りを任せてみた。まあ結果はこの通りだったが。



「り、燐…カレーがダメになちゃった…」

「カレーだったのか」

「うん。私が初めて食べた燐のお料理だし、頑張ってみようかなって思ったんだけど……」

「あーほら、分かったから泣くなよ」



ぐすぐすと涙を流すしえみの目元を、燐は指で拭ってやる。少し強めに擦ったせいでしえみの目元が赤くなったが、燐の顔も何故か赤くなっていた。



「燐?顔赤いけど、どうかしたの?」

「ばっ…あああ赤くなんかねーよ!ちょっと色々思い出して恥ずかしくなったり嬉しかったりしてねーからな!」

「う、うん」



何故か慌て始めた燐にしえみは首を傾げた。勢いに圧されて頷いたが、次の瞬間にはまあいっかと軽く頭の中で流してしまった。



「晩ごはんどうしよう……」

「あー…材料は?」

「じゃがいもとかうまく切れなくて…もうなくなちゃった」



しょぼんと項垂れるしえみ。調理台に目を向ければ、確かに戦闘後である。燐は軽く息を吐くと、しえみの頭にぽんと手を乗せた。



「んじゃあ、今から買い出しに行くぞ」

「え?」

「一緒にメシ作ろうぜ。教えてやるからさ」



にかっと燐が笑って言えば、途端にしえみの顔に笑顔が戻った。それを見た燐はまた笑って、しえみの頭を撫でる。



「んで、やっぱ当分のメシ当番は俺」

「ええ!?わ、私だってできるよ!」

「分かってるよ。だから、できるようになるまで、お前は俺のアシスタントな」



不満げに詰め寄るしえみを制して、燐は得意気に言った。いつしえみが燐に太鼓判を押してもらえるか分からないが、しえみは納得したようだ。



「分かった!じゃあ、アシスタント頑張るね!」

「おう、期待してるぜ」



ふんと鼻を鳴らすしえみを面白そうに見ながら燐が笑う。そんな二人の様子を、雪男とクロは台所と繋がっているリビングから眺めていた。



「……あの二人、完全に僕らの存在忘れてるよね」

『りんとしえみ、なかよしだな!おれもまざる!』



実は夕食にお呼ばれしていた雪男。走って燐に飛び付いたクロと笑い合ってる燐としえみ。雪男はそれを微笑ましげに眺めると、台所へ向かうため立ち上がった。







4.おなかいっぱいのあい













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