小説 | ナノ
3.柔+蝮(学生時代)




「………ほんま、なんでこんなお申がモテんのか謎や」

「いきなりなんや」



ため息と少々不機嫌な顔で現れた蝮に、柔造もイラッとした表情を隠さず蝮に視線を向けた。蝮はまじまじと柔造の顔を見つめる。そして、ずいっと右手を柔造の目の前まで持ち上げ、またため息をついた。



「あんたにまた手紙や。受け取り」

「おお、またか。なんや最近多いな。なんでなんやろ?」

「私に訊くなや。知らんわ」



蝮から手紙を受け取った柔造は、丁寧にではあるが鞄に手紙を突っ込んだ。こんなやり取りはもう数えるのも面倒臭いくらいしている。蝮はこれが始まった時を思い出して、またまたため息をついた。



「そないに嫌なら断ればええやん」

「私かてほいほい引き受けとらん。自分で渡せ言うても聞かへんねや」



蝮に頼みに来る女の子たちは口々に言う。恐ろしくも感じるほどのあの執念があるなら、自分で渡せばいいのに。蝮がそう思ってもいつも論破されてしまう。



「ふぅん?なんて言われるん?ちょお気になる。お前が言い負かされるなんて、参考にしたいわ」

「……参考にはならんと思うけど…まあ、ええわ」



興味津々で訊いてくる柔造に今度は蝮がイラッとしたが、鬱憤を晴らしたい思いもあったため話すことにした。何度も言われたセリフは思い出すのに、苦労はしなかった。




「最初は嫌や言うて断るんや。でも、そう言うと『なんで嫌なの?もしかして宝生さんも志摩先輩のこと好きなの?仲良いもんね』って言われんねん。そんで、好きやないし仲良くなんかないって言えば、『じゃあ渡してくれるよね?好きじゃないんでしょ』って……この上なくウザイねん。なんやアレ」



ぎゅっと顔を不快に歪めて、早口に蝮は言い切った。彼女たちは決して一人では蝮のもとに来ない。必ず2人くらい引き連れてくる。睨まれたって怖くはないが、それなりに威圧感はある。



「なんやそれ。わけわからんな、参考にならへんし」

「一番わけわからへんのは私や。どうにかせえや。迷惑なんやけど」

「どうにかせえ言われてもなぁ……ああ、じゃあお前が俺と一緒に行動すればええんやないか?」

「はい?」



柔造は少し考える仕草をした後、ぽんと手を叩いてドヤ顔で蝮を見た。蝮は一瞬ぽかんと呆けたが、すぐにぎゅっと顔をしかめる。



「あんた頭沸いてんのとちゃう?」

「なんでや。だって、お前と一緒に居るときにまた手紙来たらちょうどええやんか」

「なんの解決にもならんわ。アホやな」



納得いかないというような表情の柔造に、蝮は憐憫の眼差しを向けた。自分も恋や恋する乙女に疎いが、全く分からないでもない。しかし、目の前の男の女心の分からなさは想像以上らしい。



「これ以上話しても埓明かんわ。さっさと塾行かな」

「ちょ、待てや。アホってなんや。俺はアホやない!」

「黙りよし、申が。うっさいねん」



こんなお申に想いを寄せる女の気持ちなんて、一生理解できん。蝮はそう思いつつ喚く柔造を無視して塾へと向かった。






3.理解不能な









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