5.つまらないプライドなど粉々にして
神木さんと奥村くんと志摩くん
「あの子があんなこと言うなんて……びっくりした」
「なにがだ?」
「うわっ!?ちょっと!!急に視界に現れないでくれない!?」
しえみと別れた出雲が歩いていたら、視界に燐がひょいっと入ってきた。ぎょっとした出雲は思わず大声を上げる。
「んだよそんなに怒ることねーだろ。びっくりさせたのは謝るけどさ」
「なによ、案外素直なのね」
「わりぃかよ!!」
「別に?」
燐はぶつぶつ文句を言いながらも謝った。出雲はそれに驚いたが、顔には出さず嫌味を言う。すると、ほんの少し恥ずかしくなったらしい燐が顔を赤らめたが、出雲は気にしない。
「相変わらずキッツイな」
「……性格悪いのなんか自覚済みよ」
「別にそんなこと言ってないだろ…まあいいや。てか、お前なにかあったか?」
「え?」
「眉間にすっげぇシワ寄ってるぞ」
燐が自分の眉間を指差して、顔をぎゅっとしかめた。出雲は咄嗟に自分の額に手をあてて後ずさった。
「別になにもないけど!?」
「そうかあ?最近ずっとそんな顔じゃんか」
「…アンタには関係ないじゃない」
そう言って額を押さえたまま俯いた出雲。燐は途端に元気がなくなった出雲をどうしたもんかと考えたが、ふいに良い考えが浮かんだ。にっと笑って手を叩いた。
「出雲、こっち見てみろよ!!」
「…なに、よ……」
顔を覗き込むように言われて、つい燐の方に顔を向けた出雲が見たものは。
「ほれはおりぇのひゅうひょくのへんがおなんらぜ!!」
文字にはし難い可笑しな顔をした燐。今まで話していたのに、誰か分からないほど原型がないそれは破壊力抜群だった。
「……ぶっ…!!ふ、あはははは!!な、なによその顔!!」
耐えきれなくて出雲は笑いだした。燐はそれを見ると、また違う変な顔を繰り出す。
「ちょっ…やめ…あはははは!!」
「…よっしゃ!!やっと笑ったな!!」
「へ?」
お腹を押さえていたら、燐から思わぬ一言。出雲にきょとんとされて、燐はにひひと笑った。
「元気がないときは笑うのが一番だろ?それに志摩の奴が『最近出雲ちゃん元気ないんよー心配やわー』って言ってたぞ?」
「アイツが?」
燐にそう言われて出雲は怪訝な顔をした。元凶がなにを言うか。と思ったが、何故かあまり悪い気はしなかった。
「アイツの慌てっぷり面白かったぜー」
「慌てっぷりって…」
「出雲ちゃん!!」
「きゃっ!?」
意地の悪い顔をする燐に出雲が言い返そうとした時だった。出雲の両肩に誰かの手が乗り、軽く引かれた。現れたその人物を見て、燐は少し驚いたような顔をする。
「お、志摩じゃねぇか。息切らしてどうしたんだよ?」
「え、あー…奥村くんと出雲ちゃんが見えたから、俺も仲間に入れてもらおうかなーて思うて」
不思議そうに見てくる燐に、志摩は視線をさ迷わせながら答えた。
「ふぅん?相当走ったみたいだけど、平気か?歩いて来たって俺たち逃げたりしねぇぞ?」
「平気平気。気にせんといて。まあアレや…ちょお走りたい気分やったんよ」
走ってきた本当の理由を言えるわけがない。志摩は苦笑いしながら適当な理由を言った。
「……ちょっと」
「ん?なに?出雲ちゃん」
「いつまであたしに触ってる気?さっさと離しなさいよ」
出雲の声が聞こえて、志摩は出雲を見下ろす。すると、ぎっと睨みながら出雲が顔を志摩に向けた。いつもだったら彼女の望み通りに離すが、今日は…
「えー?嫌や。離さへんよ」
「なっ!?ちょ、抱きつ…離れてよ!!」
「照れんでもええで?」
「照れてないわよバカ!!」
ぎゅーと出雲を抱き込むように抱き締めた志摩。途端に出雲は暴れ出すが、力の差は歴然でびくともしない。そんな二人をずっと見ていた燐。ぽん、と拳で手のひらを叩くと、にかっと笑った。
「そっか!!仲良いんだな、お前ら」
「はあ!?仲良くなんかないわよ!!」
「そうそう。めっちゃ仲良しや」
燐の感想に出雲は噛みつくが、志摩は笑顔で肯定した。いまだ出雲は志摩の腕の中。燐には仲良しにしか見えなかった。
「意地張んなって出雲」
「張ってない!!」
「分かってへんね、奥村くん。意地張ってる出雲ちゃんが一番かわええんよ?」
出雲の態度に不思議そうな顔をする燐に、真っ赤になって抵抗する出雲、デレデレな志摩。もはや会話は成立しなかった。志摩は顎を出雲の頭に乗せ、幸せそうに弛みまくった笑顔を浮かべながらも、心でしっかりと決意した。
(本気出すから覚悟してな、出雲ちゃん)
つまらないプライドなど粉々にして
(めんどくさいとかもう言わんわ)