3.意外と現実的なドリーマー
神木さんと杜山さん
「はぁ……」
「神木さん?元気ないけど、どうかしたの?」
「別に…アンタには関係ない」
話し掛けてきたしえみを出雲は横目で見ると、ぷいっと顔を背けた。しえみはそれを全く気にすることなく出雲の隣に座る。
「なにか悩みごと?悩みがあるなら、誰かに話すといいって聞いたことがあるよ!!」
「………あってもアンタには話さない」
「…やっぱり私って頼りないかな?」
きらきらと期待の眼差しで見つめてきたしえみを、冷たくあしらえばしえみはしょぼんと項垂れた。頼りないとかではなくそれ以前の問題を言外に告げたつもりが、彼女には上手く伝わらなかったらしい。出雲はうんざりしてため息を吐いた。
「頼りないとかじゃなくて……はぁ……最近どピンク頭がしつこくてウザイのよ」
「どピンク頭って、志摩くん?」
「そうよ。他にあんな馬鹿っぽい頭した奴なんかいないでしょ」
「面白い頭だよね!!」
こてんと首を傾げたしえみに、出雲はぶすりとした表情で答えた。しえみは出雲が言った馬鹿っぽいをあまり理解していないらしく、受け取り方によっては酷い感想を笑顔で言った。出雲はなんだか微妙な気持ちになったが、まあ間違ってはないからいいかと流す。
「ほんといい加減にしてほしいわ」
「しつこいってどんな風にしつこいの?」
「……毎日毎日『俺のこと廉造って名前で呼んでほしいなぁ…あ!!廉くんでもええよ☆』って…呼ぶわけないじゃない!!」
思い出してイライラが蘇ったのか、出雲は勢い良く立ち上がって叫んだ。しえみは荒ぶる出雲を目をぱちくりさせて見つめた。
「デレるあたしが見たいとか可愛いとか…!!なんであんな恥ずかしいセリフ言えるわけ!?信じられない!!」
「神木さん…?大丈夫?」
「はっ…!!」
オロオロしながら制服の裾をしえみに引かれて出雲は我に返り、すとんと椅子に座り込んで項垂れた。
「えっと、嫌なら嫌って言ったほうがいいんじゃないかな?」
「…アンタあたしの話聞いてなかったの?何度も拒絶してるに決まってるじゃない。なのに諦めないからしつこいのよ…」
そう言って顔を伏せたまま黙り込んでしまった出雲。しえみはどうしようかと思ったが、あることを思いついた。
「志摩くんが黙ればいいってことだよね!!」
「…はい?」
「ニーちゃんに頼んでちょっと口が痺れる薬草出してもらって、それでお茶を作るの!!」
にこにこきらきらと友達を助けるという使命感に燃えるしえみには、悪意や悪気など一切ない。天然な彼女から出てきた恐ろしい案に、出雲の頭はついていけない。
「…それ、大丈夫なわけ?」
「うん!!ちょっと麻痺するだけで、身体には全然影響はないよ。2日くらいしか効果はないんだけど……」
それでもいい?という風に見つめるしえみ。純粋な瞳に出雲は思わず頷きそうになったが、慌てて首を振った。
「い、いいわよ!!そんなことしなくて!!」
「え、でも神木さん困ってるんじゃ…」
「アンタなんかに任せらんないの!!黙らせるなら自分でやるわ!!」
「…そっか、わかった。でも、私はいつでも神木さんの力になるから!!」
任せられないをまた頼りないからだと捉えたらしいしえみが、悲しそうな顔をした。しかし、納得したかのような表情になると出雲の手を握って明るい笑顔で言葉を続けた。いつもだったらその手を振り払うが、今日はどうしてもその気になれなかった出雲。そのままひきつった笑みで礼を言った。
意外と現実的なドリーマー
(純粋って怖い)