小説 | ナノ
・二人はお付き合いしてる
・出雲ちゃんデレのターン
・別人注意























「い、出雲ちゃん?」

「なによ?」

「なにって…これ、夢やないよな…現実ですよね…?」



志摩の頭は混乱していた。現在お付き合い中とはいえ、なかなか甘えてくれない愛しの出雲ちゃんが、自分の膝の上に横座りで座っている。呆けた顔で固まる志摩。出雲は無表情のままため息を吐くと、徐に腕を志摩の顔へと伸ばした。



「え、な……って、いだだだだだだっ!?ちょっ、顔伸びてまう!あだっ」

「ふん…夢じゃないって分かったでしょ」



近付いてくる出雲の顔に油断した瞬間に、志摩の頬を激痛が襲った。あまりの痛さに涙目になった志摩を見た出雲は、最後のおまけとばかりにつねっていた頬を勢い良く離した。そしてぷいっと顔を逸らす。その頬が少し赤かったことに、志摩は目敏く気付いた。



「いつもは嫌がるのに、今日はどうしたん?」

「……アンタが呼んだから、来てあげただけじゃない」

「膝の上には呼んでへんよ?」



若干矛盾したことを言う出雲に、志摩はにやにやしながら出雲の顔を覗き込む。確かに椅子に座って両手を広げて出雲を呼んだが、まさか本当に来るとは思わなかった。今日に限って彼女が素直で、だけど意地っ張りで。可愛くて仕方ない。だんまりを決め込む出雲を、志摩は逃がさないように抱き締めた。



「出雲ちゃん?」

「…っるさいわね!嫌なの!?」



名前を呼べば、眉をぎゅっと寄せて真っ赤な顔をした出雲が振り返った。やっと自分の方を向いた出雲に、志摩はにこりと笑う。



「まさか。嫌なわけないやん。寧ろ嬉しすぎて泣ける」

「………大袈裟よ」



ぎゅうぎゅうと抱き締めてくる志摩。出雲は抵抗せず、寧ろ赤い顔を隠すように志摩の胸に寄りかかった。



「俺、生まれてきてホンマに良かった!おかん産んでくれてホンマにありがとう!」

「…本当に大袈裟ね」

「え?だって、生まれてきたから出雲ちゃんと会えたんやで?全然大袈裟やないよ」

「…………」

「…あれ?ドン引き?」




突然黙り込んだ出雲。志摩はくさいセリフだと分かってはいたが、本気でドン引きされるとは思っていなかったため焦る。しかし、顔を伏せたまま出雲は動かない。どうしたのかと志摩が思ったときだった。がばっ、と勢い良く出雲が顔を上げた。視線は伏せて、合わせようとはしていないが。




「出雲ちゃん?どうかしたん?」

「………ど、………う」

「え?」

「だから!くさくて反吐が出そうなセリフだけど、あたしもそう思うって言ったのよ!」




さっきよりも真っ赤な顔で出雲は叫んだ。二回言ったことで、恥ずかしさが増したのだろう。不機嫌さもその顔にプラスされていた。志摩は言われた内容が理解しきれず、固まって出雲を凝視する。



「えーと…それってつまり、どういう…?」

「もう言わない。絶対言わないわ。その足りない頭で必死に考えればいいわ」



そう言って志摩の膝の上でふんぞり返る。いつもは少しでも気に入らなければ離れてしまうのに、降りようとも離れようともしない出雲を見て、志摩はなんだか笑いが込み上げてきた。



「なに笑ってんのよ。あたしがそんなこと言うなんて可笑しいとか思ってるわけ?」

「や、そんなんやあらへんよ。ただ、出雲ちゃんはかわええなって再認識しただけや」



くすくす口を押さえながら笑っていたら、出雲が睨んできた。鋭い目線を綺麗にかわして、志摩はぽんぽんと出雲の頭を撫でた。やはり今日はされるがままで、些か不満そうではあるが、手を振り払われることはなかった。



「今日一番聞きたい言葉、まだ聞いてへんねやけど……言ってくれへんの?」

「は?言葉?……あ」



出雲の顔を覗き込み、首を傾げた志摩。出雲は一瞬きょとんとしたが、すぐにハッとした顔になる。そして、一回きゅっと唇を結ぶと、志摩の両肩に手をかけた。



「え…出雲ちゃ…」

「誕生日おめでとう……」



ふわりと香る彼女のにおいと、額に柔らかい感触。そして耳元で聞こえた小さな声。突然のことに思考がついていかず、気付いたときには出雲は志摩の膝から降りていた。



「ちょっ…出雲ちゃん!?なに今の!!ちゃんと堪能できへんかったからもう一回やってや!!」

「ぜっったいに嫌!!一回しかやらないって決めてたんだから!!」

「じゃあ、でこちゅーはいらへんからもう一回アレ言ってほしいなぁ」



赤い顔で走り去っていく出雲を志摩は追い掛けるが、捕まってくれない。せめてもう一度聞けたらと思い、叫んだら出雲は足を止めて笑った。



「誕生日おめでと!廉造!」

「そっちやなくて!……って、今名前…」



付き合って日が経ってないとはいえ、名前で呼んでくれなかったのに。いくらなんでも不意打ちすぎる。志摩は片手で顔を覆うと、ため息を吐いた。



「ホンマ…適わへんわ。最高の誕生日プレゼントやな」



どうしてもにやける顔。志摩はもう一度ため息を吐いて気持ちを落ち着かせると、出雲を追い掛けるために走り出した。










(今日だけ少し素直に)












20110704 志摩誕









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