▼ あの雨雲に滲む
「…、」
喉が唸るような、中途半端な音が隣から聞こえた。
別に寝付けなくてずっと起きていたわけでも、眠りが浅く神経質なわけでもない。しかも時刻は午前四時頃、何故目が覚めたのか自分で自分に疑問符を投げかけ窓の方を向いた。
カーテン越しの外の景色は意識を落とす前よりは心なしか明るいのだろうが、この部屋はまだ影が大半を占めている。ただこの目自体暗闇に慣れていたので薄く開かれた視界に関しては苦を感じない。
首を傾ければ、鼻が触れそうな距離にある、少し伸びた金髪。
「…つ、」
後頭部が離れた。うずくまるような姿勢でまたも僅かに漏れた息に、あぁ、なるほど。
「頭痛?」
上から覗き込むように顔色を伺えば、薄く開いた瞼から見えるグレーとエメラルドグリーンとスカイブルーを混ぜ合わせたような淡く不思議な瞳の色。
「…あぁ」
色素の薄い眉が僅かに歪んでいるのは、意識を向けた外の、さっきから耳障りな雨の音のせいだろうか。
後ろからメロの頭を包むように抱いて撫でながら、あぁもうすぐ春か、などと呑気に考えた。
雨はいつもメロを苦しめるから好きになれない。ずぶ濡れにもなるし何よりも遠ければ遠いほどに姿が霞んでいってしまう。
「マット、」
「ん?」
まあそんなことなんて。
「もう少し」
一緒に眠りに落ちたら忘れる夢だ。
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