柳生 | ナノ
「柳生…俺は、一体どうしたらいいのだろうか…」
「はあ…」
知りません、とは言えない自分の性格を、このとき柳生は全力で恨んだ。
珍しく(というより今まで一度もないが)真田に、相談したいことがある、そう言われて私でよければと答えて早一時間。幸村がどうとか、書がどうとか、要領を得ない愚痴のような真田の言葉に柳生は辟易していた。この後特に予定があるわけではないが、早々に切り上げてしまいたい。今までは大人しく相づちを打っているだけだったが、これはもうこちらから問いかけないと話が進まないだろう。
「真田くん」
「む?」
「その、要するに、幸村くんに書を贈ろうと、そう考えているのですか?なぜまたそんな?」
何かあっただろうか。幸村はもう全快と言ってもいいし、しばらくは部活もない。書を贈るなとは言わないが、少々タイミングとしておかしいのではないだろうか。
「いや、誕生日は毎年書を贈っていたから、今年もそうしようと思っていたのだが、」
「え、ちょ、ちょっと待ってください真田くん」
待て、今なんと言った?誕生日?誰の?幸村、と言っていた?
「どうしたのだ?」
「あの、つかぬことをお聞きしますが、幸村くんの誕生日は…?」
「明日だろう?」
「なんですって!」
思わず上げた声に真田が驚いた表情をするが、かまってはいられない。知らなかった。明日が友人であり、チームメイトである幸村の大切な日であるということなど。
「む、知らなかったか」
「ええ、まあ…、お恥ずかしながら…」
「仕方あるまい。去年はあまりそういう雰囲気ではなかったし、教えなかった俺たちにも非はある」
「いえ…私の責任です…。少し考えれば気づいたことなのですから…」
もう少しで一年が終わるのだから、自分たちが幸村の誕生日だけ祝っていないことに気づけたはずだ。
自分の至らなさに落ち込みつつ、俺が悪い、いや私がと押し問答を繰り広げ、あげく二人の間には気まずい沈黙が降りた。幸村の誕生日まであまり時間はない。二人とも必死である。
「…なにやってるんだい?」
呆れたような、澄んだ声に二人で顔をあげると、教室と廊下の境の窓に手をかけた渦中の人物がいた。
「ゆ、ゆきむら…」
「幸村、くん…。今帰りですか?」
「そうだよ。そしたら二人で顔突き合わせて唸ってたからさ、何事かと思ったよ」
写メ撮っておけばよかったな、と笑った幸村になんとも言えない心境に陥る。端から見て自分たちが変だった自覚はあるが、それには正当な理由があるのだと主張したい。もちろんそんなことできるわけもないが。
「それよりも、二人ともそろそろ下校時間だけど、こんなとこ居ていいの?仮にも風紀委員なんでしょ?」
「なに?もうそんな時間か」
「わかったなら早く帰ろうよ」
「ああ、しばし待て。柳生はそっちの窓を閉めてくれるか」
「わかりました」
カチャリ、窓の鍵をかけながら、結局何も思い浮かばなかったとこっそりため息をついた。