ジャッカル | ナノ


仁王が幸村へのプレゼントのことで頭を悩ませていた頃、国語の授業を受けていたジャッカルは別のことで頭を悩ませていた。
授業の内容が全く理解出来ないのだ。
三月も五日が過ぎたこの時期、ジャッカルも立海大附属中学の三年生の大半の例に漏れず、立海大の附属高校への進学が決まっているのだが、それにしたってこの国語力のなさはまずい。
見た目に似合わず案外生真面目なところのあるジャッカルはこのまま中学レベルの国語力も身につけられないまま高校生になってしまったら最悪留年してしまうようなこともあるのではないかと焦りを感じていた。
悩む間にも時間は過ぎていき、もっと身を入れて授業を聞いていなければならないとは分かっているのに板書を写すだけの授業は終わりを迎えようとしていた。
既に今日の授業を理解することを諦めたジャッカルは春が近づいているのにも関わらず未だ冷たい窓に手を重ねて外の様子を伺う。
視界に映ったグラウンドには、校舎の外周を回る持久走から帰ってきた下級生らしき生徒たちが肩で息をしているのが見えた。
そしてジャッカルは不意にニ年頭の部活中に起きた出来事のことを思い出す。
二年に進級したばかりの、赤也が一年生ながらに真田と渡り合ったことが噂になっていたあの頃、ジャッカルは幸村に持久走と称されてハーフマラソン並みの距離を走らさられた。
何故自分一人がこうも苦しい思いをしなくてはならないのか、不満に思いながらもその長い距離を部活時間中に走りきって酷く息を切らすジャッカルに近づいてきたあの暴君は、男であることがもったいなく思えるくらいに美しい笑みを浮かべてこんなことを言った。

「あれだけの距離をいきなり走れって言われて走れるなんて、ジャッカルって肺が四つくらいあるんじゃない」

それからしばらくして、ジャッカルは念願だったレギュラーに決まり、その時も幸村はいつもの笑顔を浮かべていた。
後に知ることになるのだが、ジャッカルのレギュラー入りは持久走の件でジャッカルの体力を認めた幸村が監督に口添えしたことから決まったことらしい。
ジャッカルが途方も無いような距離を走らされたのは意味のないことではなかったのだ。
そんなこともあり、ジャッカルは幸村に恩義を感じている。
仁王のように誕生日を忘れたりはしていなかったし、プレゼントだってもちろん用意していた。
ロッカーにしまってあるそれを幸村が喜んでくれるかは少し不安だったが、今更悩んでも仕方がない。
そうこうしている内に授業が終わった。
結局理解できなかった上に、後半は話を聞き流すことすらしていない。
ジャッカルは自分に失望し、溜息をつきそうになったが教室の入口に見慣れた長身の姿が見えたので立ち上がった。

「浮かない顔をしているな」

自分のもとへとぼとぼと歩いてきたジャッカルに柳はそんなことを言った。
渋い表情をしたジャッカルはただ一言、

「国語が分からねえ」

それだけ言って、未だ板書の残る教室の黒板を一瞥する。
柳はそんなことか、と呟き、

「今度教えてやるから心配するな」

と続けた。
ジャッカルはほんのすこしだけ肩の荷が降りたのを感じ、礼を言ってから柳に何か用でもあるのかと尋ねる。

「大した用事じゃない、精市の誕生日のことを忘れていないのか確認に来ただけだ」

昨日伝えたばかりだからまさか忘れてはいまいと思うが、付け足して柳は微笑する。

「そんなことか、きちんとプレゼントも用意してあるぜ」
「そうか」

柳の表情に安堵の色が見えた。
ジャッカルは幸村の家にコーヒーミルがあると聞いたのでコーヒー豆を用意したと伝え、まさか誕生日のことを忘れているような奴はいないだろうと付け足す。

「ブン太にも教えてやったしな」
「……仁王が忘れていたらしい」
「……なるほどな」

妙に納得してしまったジャッカルは、ふと脳裏に浮かんだことを呟いた。

「赤也は大丈夫なのか?」
「ああ、大丈夫だ。
赤也とは一緒にプレゼントを買いに行った」
「……マジかよ、お前ら仲良いな」
「それほどでもない」

柳はそう言うが、実際赤也は柳によく懐いているし、柳もそんな赤也を可愛がっているように見える。
しかしこんなところで食い下がっても仕方がないのでジャッカルは苦笑いを浮かべて頷いた。

「話はそれだけだ」
「おう、じゃあな」

柳に手を振って教室に戻る。
しばらくして授業開始のチャイムが鳴り、教師が入ってきた。
冷たい窓の外にもう一度視線を移すと、先ほど話にあがった銀色の髪をした男が部室に向かって歩いていくのが見えた。
なに考えてるのか分からねえ奴、いつもと変わらず考えの読めない仁王の行動について深くは考えず、ジャッカルは机から教科書を出し、黒板に向き直る。
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