丸井 | ナノ



「え、うっそ。もうそんな時期かよぃ」


放課後、習慣のように一緒に帰っている桑原に明日は幸村の誕生日らしいと教えられて、丸井は思わず膨らませていたガムを割ってしまった。


「ああ。柳に教科書借りいったら教えてくれた」

「ああ、柳か…。ならマジだな」


柳と桑原はクラスが近いせいかそれなりに仲がいい。何かおもしろい情報を貰ってきたり、丸井や仁王への言付けを預かってくることもしばしばだ。


「っあー…どうすっかな。明日だからあんまり時間かけらんねーし」

「だよなぁ…」


今年はきちんと祝いたいというのは桑原と丸井の間での暗黙の了解だ。ぷくり、ガムを膨らませながら考える。味がなくなってきたことに気付いて、ポケットに手を突っ込んだ。



****



「どうすっかなぁ…」


小さい頃から愛読しているお菓子の本を取り出したのはもはや反射だ。友人達には照れ臭くてそんなことはしたことはないが、弟達の誕生日には必ず丸井がケーキを作ってる。だからまあケーキでも作るかとも考えたが、そもそも幸村はそれほど甘い物を食べない。苦手ではないらしいが、少なくともあまりもらっても困るばかりだろう。それでは誕生日に相応しくない。できれば、彼がもらって、お世辞ではなく素直にもらってよかったと思ってもらえるものをあげたいのだ。


「幸村くんの好きなもの…」


確か、詩に、なんちゃらの絵に、あとはガーデニング。どれも丸井はそれほど詳しくはない。かろうじて丸井の家にも庭はあるが、こちらは食べられる物を育てているから花はどのみちわからない。


「あ、でも…」


庭の一部ではローズマリーにレモングラス、アップルミントなど様々なハーブが植えてある。丸井はいつもお菓子作りや料理に使うが、母親がハーブティーに使っていたりもする。育ちがいいせいかナチュラルに紅茶などの類いにうるさい幸村にはピッタリではなかろうか。


「うしっ!」


そうと決まれば急がねば。あまり時間はない。コートを引っつかんで駆け出した。


「母さん!ホームセンター行ってくる!」


告げると同時に外に出る。ランニングより少し早いペースでバス停に向かった。
丸井は部活じゃないときの穏やかな幸村が好きだ。もちろん部活の時は強くて格好よくていいと思うけど、全国までの幸村はずっとそんな感じで、部長で有り続けることを己に強く課していた気がする。ガーデニングが趣味だなんて、報道委員会が聞きにくるまで知らなかった。もっと緩やかに、部活以外も楽しんでいいのだと教えてあげたい。それはいけないことではないはずだ。
喜んでくれるといい。そう思いながらスピードを上げた。





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