秘密が潜む恋

虹が空に架かると直ぐに、私達と世界を隔てていた雨は止んだ。濃くなった雨の匂いの中で、無言の時間が過ぎていく。言葉は無くとも、お喋りな時間だった。訊きたいことは鳥のさえずりが訊き、答えは町に溢れる日常の音が時折代弁する、という具合に。雨に洗われた世界はとても輝いている。例えば、青春の中心にいるだろう私達のように。

「倉科君」

隣に座る彼は虹を見つめている。色は薄く、もう直ぐ消えてしまいそうだ。

「んえ?」
「受け止めてくれる?」

私の言葉にきょとんとする彼の顔は、授業中に予定外な指名を受けて慌てて起立した時にそっくりだった。懐かしさと一緒に何かがこみ上げてくる。私が居なくなったあの教室では変わらない風景が流れていくのだ。授業中に倉科君を盗み見ることも出来ないし、クラスメイト達の方が必然的に多くの時間を共有する。単純で当たり前のことに、とても悲しくなった。倉科君は、私の気持ちを受け止めてくれるだろうか。一ミリもずれることなく、真正面から。

「私を、受け止めてくれる?」
「うん」

こんな短い言葉では、きっと伝わってはいないだろう。いつか重荷になって置き去りにされる日まで、私は倉科君と青春に満ちた恋をしよう。

うん、と言ってくれただけの返事に、受け止めてくれるだけの力があるかは解らないけど、甘酸っぱい恋の想い出があればいい。ごめんね、倉科君。照れている顔から目をそらした。

「ちゃんと言うから聞いてくれる?」

倉科君はそう言って、告白を始めた。

「ずっと、朝倉が好きだったんだ。転校してからも、いつもの朝倉がいつもの席にいるような気がして。転校する前に言えば良かった。僕は、朝倉が好き。きっと受け止める。僕達、付き合えるよね?」

私は思わず目を細めた。付き合う、という言葉が妙に安っぽく響いたのだ。私達は若すぎる。大きな秘密を抱えた私を、倉科君はどう思うだろう。逆に私は、倉科君を受け止められるだろうか。転校はある意味チャンスだったのだ。不安や後悔、マイナスの感情が襲ってくる。阿部君に残した欠片が膨張して、原形を取り戻そうと膨らみ続ける。

「うん。私も好きだったから」

少し首を傾げてそう答えた。ごめんね、倉科君。恋や青春というものが、こんなにも強く私を動かす。

fin.

joie様
お題「真正面から受け止めて」




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