希望に満ちたオパール

「オパールってさ、」
瞳の奥に何かを潜めて圭介が言った。
「気持ち悪くね?」

乳白色に七色を乗せた玉虫のようなオパールが、ケースの中でブローチにされていた。

「綺麗だよ」

「えー。しかもこれ、モチーフ、虫だし。 余計気持ち悪、」

ぎゅっと圭介の足を踏みつけると、ケースの向こうの女性に微笑んで、「このオパール、下さい」と言った。
少し遅れて、圭介の悲痛な声が響く。

「ピンヒールで踏むなよ!」
痛そうに歩く圭介。
「じゃぁね。ここでさよなら」

私が言うと、きょとんとして「映画は?」と聞いてきた。買い物をして、映画を観て、食事をして。今日のデートの予定を、 買い物だけで終わらせようとしている。ううん、デートの予定の他に終わらせたい事があって、私は今その事を伝えているのだ。

「圭介がオパールを気持ち悪いって言ったのと同じ、私も圭介が気持ち悪いのよ」

微笑んでこんな事を言う私も気持ち悪かったかもしれない。さよならの意味を理解した圭介の表情はみるみる変わって、さっきと同じ、「瞳の奥に何かを潜めた」目をし た。

「それよ」

「なんだよ」

「その眼。浮気してるでしょ。しかもそっちが本命になりつつあるでしょ」

圭介は何も言わなくなった。言えない、のほうが正しいんだろう。二人きりの部屋で言われたのなら、醜い言い訳も出来ただろうけど。ここは大通り、人通りも多い。圭 介は絶対に何も言えなくなる、予想通りだった。

「さ、よ、う、な、ら」

一文字づつはっきりとゆっくりと伝えると、ヒールを鳴らして歩いていく。 街路樹の葉が太陽を遮って、黒い模様を落としている。冷たい風に揺れて、寒い寒いと言っているように、乾いた音をたてた。

オパールは、枯渇するとひび割れるらしい。私もそうだ。圭介からの愛が届かなくなってから、とても渇いている。でも幸い、まだひび割れてはいない。別れ時は今だと思った。ひび割れてからでは、醜い女になってしまう。

足を止め、買ったばかりのオパールを胸に着けた。希望に満ちたこの色を「気持ち悪い」と言った男がいたと、些細な想い出を作ってやったのだ。

誰かを愛して、誰かに愛され、二人の間を循環するから愛は育つのだろう。二人だけのオリジナルの愛が造られるのだろう。この「希望」を胸に着け、満たし満たされる人を探しに行く。 オパールは、私に似ている。だから選んだのかもしれない。いつも希望に満ちた私でいよう。胸に留まる虫をコツンと指で突いた。


蜜月様
お題「12の宝石からつむぐ」
お題「希望に満ちたオパール」




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -