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stardust

http://nanos.jp/xxvorxx/ | Photo by Sky Ruins
Prince of Tennis
Short story
Marry Me!(伊武リョ)

「越前くん」

 ワイワイと先輩たちと騒ぎながら帰路につこうとしていたリョーマを、どこかで聞いた覚えのある声が呼んだ。声の主を探るように校門へと視線を向けて見れば、そこにいたのはつい数週間前に地区大会で対戦した不動峰中の男だった。長い黒髪に光を灯さないガラスのような瞳。顔色は少し病弱なのでは?と疑ってしまうほど青白い。見たことのある顔に、果て名前は何だったか?と首を傾げる。すると、自分の後ろにいた乾が眼鏡をクイッと上げて彼の名前を呼んだ。

「不動峰の伊武くんだね」

 乾に言われ、あぁそういえばそんな名前だったかもしれないと一人納得する。すると、そんなことを考えているリョーマには気づかずに、伊武とリョーマの間にズイっと桃城と不二が立ちはだかった。

「不動峰中から何だよ」
「越前に何か用でも?」

 どこか敵意をむき出しにする二人に、どうしたのかと今度は首を傾げる。どこか腹黒いが普段は温和な不二と基本的に人のいい桃城の思わぬ態度を不思議に思った。すると、そんなリョーマの様子に気がついたのかリョーマを後ろから抱きしめていた菊丸がコソっと耳元で言葉を紡ぐ。

「オチビ、地区大会で怪我したでしょ?だからみんな心配してるんだよ」

 そう言われれば、伊武が姿を表してから先輩たちの様子がどこと無く可笑しいような気がする、と周囲に目を配ったリョーマは感じた。伊武にあからさまな敵意を向ける不二と桃城だけでなく、自分の隣を歩く乾もどこか無表情で、手塚に至っては盛大に眉間に皺を寄せている。大石と河村はオロオロとしているだけであったが、かくいう菊丸もリョーマを抱きしめる力が普段よりも少し強い。どうやら自分を心配してくれている様子の先輩たちの好意に、むず痒くなる気持ちを感じたけれど、それ以上にリョーマは、伊武に対して失礼ではないだろうか?と感じていた。
 あの日の試合の怪我がこのような状況を招いているというのなら、あの怪我は伊武には全く何の過失もない。確かに伊武が使うスポットという技によりラケットを握る握力が弱まったのだが、それでも構わずラケットを振り挙句怪我をしたのはリョーマの責任だった。だからこそ、リョーマは伊武に対して何ら悪意を持ってはいないし、逆に楽しいテニスが出来て満足しているのだ。そう考えたリョーマはピリピリしている先輩たちと伊武を見つめると、背後にへばりついている菊丸の腕から無理やり抜け出し、ズィっと伊武の前へと姿を現した。

「どうしたんッスか?伊武さん」
「っちょ、越前…」

 突然前に出たリョーマの腕を不二が慌てた様子で掴むが、それもスルリと避けたリョーマは気にすることなく伊武へと歩み寄った。そうしてどこか不機嫌な表情を浮かべていた伊武を前にしてコテンを首を傾げてみせる。すると、先ほどまで不二と桃城と睨み合っていた伊武は、少しだけ驚いた表情を浮かべるといつものポーカーフェイスを貼り付けて一歩リョーマへと近づいた。

「この前の怪我、どうなったかと思って」
「心配して来てくれたんッスか?」

 ジッと何を考えているか解らない瞳でリョーマを見下ろす伊武は、ぼそぼそと小さい声で呟いた。そんな思いがけない伊武の言葉にリョーマは普段浮かべる生意気な笑みとは違う、少しだけ柔らかな微笑を浮かべる。すると、その微笑を直視した伊武は、小さく息を吸い込むとどこかぶっきらぼうな態度で顔を背ける。

「別に…」

 そんな素直じゃない態度にリョーマはやはりクスリと笑みを浮かべるほかなかった。
 あの日のリョーマの傷は出血の量に対し非常に浅いものだった。何針か縫うハメにはなったが既に抜糸も終わり、今では跡形もなく塞がっている。既にリョーマ自身忘れかけていたことを心配して様子を見に来てくれるとは、意外に優しい所があるではないかと微笑ましくも思った。
 そんな伊武の気遣いに気をよくしたのか、リョーマは「心配させるのも悪いし」というわけで、現在は傷は完治しているのだという旨を伝えるために、スィっと前髪を上げると先日怪我を負った辺りを伊武の前に晒し出す。

「大丈夫ッスよ。ちゃんと怪我も塞がったし。跡もないから」
「………」

 リョーマが前髪を上げたことに気がついた伊武は、逸らしてた視線を彼が怪我を負った辺りに固定すると、ジッと執拗深く観察する。そこに怪我の跡すら残っていないことを確認した伊武は、どこか安堵した様子で小さく息を吐き出した。
 そんな伊武の様子に、彼が悪意を持ってリョーマに会いに来たわけではないということを感じ取ったのか、リョーマの背後で二人の様子を見守っていた不二たちも、落ち着いた様子で肩の力を抜く。そうして、どこか和やかなムードが辺りに漂った瞬間、伊武の次の行動が彼らの空気をピシャリと凍らせた。

「伊武…さん?」

 伊武は黙ったまま、いまだ前髪を上げたままのリョーマに手を伸ばすと、ちょうど彼が傷を負った瞼の辺りを優しく指でなぞる。それは、どこか怪しげな動きでリョーマはドクリと心臓が大きく鼓動したのを感じた。
 そうして、青学の部員たちが固まってしまったことにもお構いなしに、伊武はその無表情のまま更なる爆弾を投下した。

「残念。跡残ってたら責任取ってお嫁さんに貰って上げようかと思っていたのにな」



Marry Me!
(ねぇ?オレの所にお嫁に来なよ)
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After word(あとがき)
伊武リョ。ニコニコの一挙放送を見て滾ったネタ。あの怪我は伊武くんのせいじゃないけど、伊武くんは責任取ってリョーマくんのことお嫁さんにしなさい!ちなみにこの後青学陣は絶叫しリョーマを保護。リョーマくんはよくわかんないトキメキにドキマギ中。そうして伊武くんは現れた不動峰中に連行されるのでしたー。補足としては、伊武くんは本気です。別に傷がなくなってても「お嫁さんに来なよ」とか平気で言っちゃいます。ネガティブなくせに押せ押せの伊武くんが好き。
2012/05/29
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