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stardust

http://nanos.jp/xxvorxx/ | Photo by Sky Ruins
Prince of Tennis
Short story
その髪に口付けたい衝動(海リョ)

「越前って猫みたいッスよね」

 大きな口を開けて笑う桃城の言葉にオレは脱ぎかけのユニフォームのまま身体を硬直させた。視線は決して後ろには向けずに、未だ耳障りな声で話す桃城と先輩の声に耳を傾ける。

「目がクリクリ大きくて少し釣り上がってて!」
「確かにあのマイペースさもどこか猫を思い起こすものを感じるよね」

 そう言われれば何となくそんな気がしてオレは、つい最近入部した生意気な一年を思い出した。真っ白帽子の合間から覗くこぼれ落ちそうなほどの大きな瞳がまるで観察するかのようにジッとオレを見る。どんなに鋭いショットを打ってもヒラリと身軽に打ち返す様は確かに猫のようだった。身体も小さくて、毛艶はよい。昼寝が好きで常に自由。一人を好みフラりと姿を消しては、気付いた時には戻ってきている。
 あの生意気な一年は、確かに桃城の言うとおり猫のようだった。

「お先ッス」

 未だ話に花を咲かせる先輩達に一言声をかけ(桃城にはかけねぇ)オレはテニスバッグを背負って部室を後にした。
 まだ春先の冷たい夜風が身体に染みる。燃えるような夕陽も後数時間で沈むことだろう。
 ふと、何気なくテニスコート近くの緑道を見てみると、芝生の上で寝転ぶ人影が。それは先程脳内を閉めていた生意気な一年。足を投げ出しテニスバッグを枕にして眠る姿は、普段のあいつが見せる姿よりも幾分か幼げに見えた。

(何でこんなとこで寝てやがる…)

 呆れながらも未だ眠る越前へと足を向ければ、そいつはあの特徴的な瞳を閉じて安らかな寝息を立てていた。
 オレは、ジィっとそいつを見た後、周囲に人がいないか辺りを見渡す。人気がないことを確認すると音をたてずにそいつの隣に腰を下ろした。

(猫…か…)

 未だ起きないことをいいことに、何となしにそいつの姿を観察する。未だ成長途中の身体。手足も細くとても頼りなく見えるが、その肉体が強靭的な力を秘めていることをオレは知っている。今は閉じられた瞳を長い睫毛が覆い、薄く開かれた唇の合間からは甘い吐息が漏れていた。サラサラと風に靡く髪は全く痛む様子の見られない絹のようで、オレは無性にその髪に触れてみたくなった。

「………」

 そいつが未だ眠っていることを確認するとその黒く綺麗な髪に手を伸ばす。触れたそれは案の定想像していた通りのさわり心地のよさで、サラサラと指の合間から溢れていく。オレと同じような髪色なのに、オレのものとは全く違うその手触りにどこか感心した気分でするすると撫でる。
 ふと、どこもかしこも猫みたいな癖に髪だけは猫よりもサラサラしているんだなと考えていると、その髪に口付けたらとても気持ちよさそうだという妙な欲求が生まれた。ボンヤリとした意識のまま、何となしに濡れるような漆黒の髪を一房掬いあげるとそっと唇を寄せる。

(シャンプーな匂い…)

 鼻腔を擽るどこか花みたいな香りに、それがそいつの髪からしているのだと理解する。そして、その髪に唇が触れようとした瞬間、瞼を下ろした越前が身を捩るようにして声をあげた。

「ん……」
「!?」

 その声を聞いてオレは直ぐ様現実に引き戻された。髪に触れていた手を引っ込めるて勢いよく顔を離し、恐る恐る視線を送る。まさか起きたのでは?と内心びくつきながら越前を見ると、当の本人はまた幸せそうな寝息を立てているから、なぜかどっと疲れてしまったのだが、しかしオレは、先程自分がしようとしたことを思い返すと、ひゅっと息を吸い込んだ。

(何をやってんだっ!!)

 無防備に眠る後輩を起こすでもなく、そいつの隣に腰掛け、あまつさえサラサラの髪をすいて、口づけたいなど、普通考えるようなことではない。しかも、越前は男だ。なぜ男の髪に触れそれに口づけたいなどと思ったのか。自分自身の行動だと言うのに全く理解することもできず、オレは頭を抱えるしかなかった。

(これも全部、あいつを猫みたいだなんて言った桃城のせいだっ!!)

 顔を真っ赤にして恨みがましく視線を部室に向ける。理不尽な憎悪ではあると解りつつも自分の行動の非常識さを認めたくなくて、オレはバカ面の同期に無意味な恨み言をはいた。
 もうすぐ、夜も近づき帰り支度をしている先輩たちも帰路につくだろう。その時になればこの細やかな一時の時間も終わりを告げるのだが、今はまだ…。と隣で健やかな寝息を立てている後輩に視線を送ると、赤くなった顔を押さえてオレは帰るために腰をあげるでもなく、隣に腰を下ろしていた。



そのに口付けたい衝動
(跳ね上がる鼓動は治まる様子もなさそうだ)
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After word(あとがき)
海リョ。猫好きな海堂さんはきっとリョーマくんにドキドキしていると思います。海堂先輩にただリョーマの髪の毛にキスして欲しかったためだけに書きました。まぁ、未遂ですけど。
2012/05/22
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