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stardust

http://nanos.jp/xxvorxx/ | Photo by Sky Ruins
Prince of Tennis
Short story
君の細い首に手をかける(不二→リョ)

 越前はとてもテニスを愛している。いつも直向きにテニスに向き合い、どんな強敵が立ちはだかっても臆することなく、楽しそうにラケットを振るった。僕も楽しいことは好きだから、楽しいテニスをするのは好きだったけど、僕がテニスに感じる楽しさと彼がテニスに感じる楽しさは全く異なっていた。
 彼は常に勝利を望んでいた。どんな怪我を負っても、どんなに苦しい戦いでも、どんなに力の差を目の当たりにしても、彼のその勝ち気な瞳が曇ることはなく、最後の一瞬まで諦めはしない。そんな姿に何度心が熱くなったか、君は知らないだろう。
 それでも、彼のテニスは『誰かのコピー』だと手塚は言う。あれほどテニスを愛している彼のあの思いが、情熱が、直向きな姿勢が『誰かのコピー』をすることに向けるものではないと僕は思っていたけれど、手塚は僕の言葉を聞いて眉を潜めるだけだった。
 よくも悪くも、僕は彼の瞳には映らない。越前は常に強い者を追い求め、そしてそれはやはりと言うべきか手塚に向けられるようになった。それが例え心を騒がせる愛ではなくとも、彼の瞳が他の者を見るだけで、僕の心はザワザワとざわついた。そしてその度に思い知らされる。
 なぜ僕ではないのだろうか?と。

 夕陽が沈む。誰もいないコートで一人片付けをしている越前に気がついた僕は、高なる胸を押さえつけて彼に近付いた。直ぐ様僕の気配に気がついた越前は、しかし興味がないのか直ぐ様片付けの続きを始める。僕は更に彼の近くへ行くために足を進めた。

「越前」

 そう呼び掛ければ彼は幾分か低い場所にある顔を上げ上目遣いで僕を見上げる。勝ち気な瞳は少し眠いのかユラユラ揺れ、夕陽の光を浴びてとても不思議な色を放っていた。
 ふと、ユニフォームの合間から彼の白く細い首が覗く。シミ一つないその首もとにいつか自分以外の誰かが顔を埋めるのかも知れないと考えただけで、僕の腸は煮えくり返りそうな気分だった。
 無言のまま、彼の首もとへと手を伸ばす。あぁ、その首もとに顔を埋めて柔らかな肌に口付けることができたならばと浅はかな欲求が脳裏を過った。
 神妙な顔つきで突然首もとに手を伸ばす僕を越前が訝しげな様子で見つめていた。

「不二…先輩?」

 眉を寄せ僕の名を呼ぶ越前に、僕の意識は急激に浮上した。そして、今まさに彼に触れようとしている手を見ると、なんて馬鹿なことをと笑いたくなる。僕は誤魔化すように彼に笑いかけると、首もとに伸ばしかけていた手をあげ、ポスッと彼の帽子の上に置いた。

「もうすぐ日も沈むから帰ろうか」
「……ッス」

 そう笑いかければ越前は、どこか照れた様子で帽子を深く被り直す。そうして、ラケットバッグを背負うとスタスタとコートの外へと足を向けた。僕はそんな越前の姿に、込み上げてきた笑いを携えね彼の後を追う。ガチャンと閉められたテニスコートのフェンスの音が木霊する中、僕は先程の出来事を思い起こした。
 あの時、夕陽に揺れる彼の瞳を見た時、僕は彼に触れたくなった。あの白く細い首もとに触れ、柔らかな肌に顔を埋めたい衝動にかられた。けれど、僕はあの時、彼の首もとに触れたとしたら、一体何をしただろうか。その白い首もとをなぞるように指を這わせたのだろうか。それとも…。
 そこまで考えて僕はゾクリと背筋に悪寒が走った。スタスタと部室に姿を消した越前を待ち構えていたかのように、騒ぎだす桃や英二の声を聞きながら、僕は言い知れぬ恐怖がすぐ側まで近づいて来ているのを感じた。
 そう。僕があの時、彼に触れようとした時、願っていたのは愛を囁くそんな暖かな気持ちではなかった。もっと暗く淀んだ泥々とした醜いものだ。
 背後に迫る夕闇が嘲笑う。未だ硬直したまま動けずにいる僕を見て、「あーあ、もう少しだったのにね?」とでも言わんばかりに妖しく笑みを携えていた。



君の細いに手をかける
(夕闇が見せる妖しくも怖い夢)
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After word(あとがき)
不二→リョ。一挙放送を見て青学リョに萌えたぎって書き殴った代物。基本的に私の所の不二は黒くてギャグ要員なんですけど、こういう白(灰色くらい)な不二も好きです。若干塚リョ←不二っぽい要素もありますが、塚リョは師弟関係みたいなものと思って下さい。
実は似たような小説を青学リョで書いてます。後日upしますが。不二は首、海堂は髪、でMEMOに書いてある菊丸は瞳という風になんか気づかないうちに人体の話になっていました。このまま行くと…他の人はどうなるんでしょうか?後あるのは、手とか背中とか唇とか?流石に足とかは…侑士の足フェチネタ以外では使えないですもんね(笑)
2012/05/22
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