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stardust

http://nanos.jp/xxvorxx/ | Photo by Sky Ruins
Prince of Tennis
Short story
その者猛獣につき要注意!(金リョ)

「コシマエー!!」
「ぅ、わ!」

 のろのろと眠気眼で歩いていた所、突然のし掛かるかのように背中に重量がかかり、若干意識を飛ばしかけていたリョーマは、あまりの驚きに目をぎょっと見開いて間抜けな声を上げた。何だ?と視線をさ迷わせてみれば、背中からそれこそ抱き込むように力強く腕を回す同じくらいの身長の少年が一人。肩に顔を埋める少年特有の赤髪がゆらりと頬を撫でるのにくすぐったさを感じたリョーマは、目をやわやわと細めると小さく溜め息を漏らした。

「何?金」
「なんや、もうばれてしもたんか」

 呆れたような声で名前を呼ぶリョーマに、埋めていた顔をスッと上げた少年は、それこそ頬ずりするように顔を近づけるとニカッと楽しげな笑みを浮かべた。
 リョーマを背中からガシッと抱き締めるのは四天宝寺に通う金太郎であった。東京の青学テニス部で一年レギュラーとして活躍しているリョーマは、男子中学テニス界では東のルーキーと呼ばれているのに対し、大阪の四天宝寺に通う金太郎は西のルーキーと呼ばれていた。身長は全く同じだが、どちらかといえば華奢で少女めいているリョーマとは異なり、金太郎はガシリとした筋肉質な未だ幼さを残す少年といった風貌だ。プレイスタイルや性格はまるで正反対で、抜群のコントロールとずば抜けたセンスを持つ繊細なプレイスタイルのリョーマと、その小さな身体からは到底想像もつかないほど強力なパワーで相手を捩じ伏せる金太郎だったが、二人はよきライバルとして行動をともにすることが多かった。とは言っても普段から一人を好むリョーマは、ふらふらと勝手に姿を消すのだが、そんなリョーマを見つける度に一目散に金太郎がかけより、全身から溢れる愛でタックルしていた。

「こんなことするのアンタくらいなもんだよ」

 こう会う度々で激しいスキンシップを受けていく内に金太郎の暴挙にも馴れてしまったリョーマは、半場呆れつつも彼の気がすむようにさせていた。金太郎がリョーマに向けるのは決して嫌な感情ではなくて、尊敬だとか友情だとかの好意であるためリョーマとしても嫌な気分にさせられることもない。
 また、彼のことを猫可愛がる同じ学校の先輩たちも金太郎だと暖かく二人のルーキーを見守っているだけなので、リョーマも然して気にすることもなかった。これが氷帝の跡部や忍足、山吹の千石、立海大の幸村だったりすれば、直ぐ様青学レギュラー陣が飛んできてリョーマを保護するものの、金太郎の無邪気さには一切の邪な感情かないと解っているのか誰も彼を咎める物はいなかった。
 その日も、合同練習を兼ねて青学にやってきていた四天宝寺だったのだが、金太郎は事あるごとにリョーマに飛び付いては嬉しそうな笑みを浮かべていた。こんな笑顔を向けられれば振りほどけるものも振りほどけられないと諦めつつ、引き摺るような形で金太郎を背中にくっ付けたままリョーマは移動するはめとなる。

「そぉか?コシマエんとこの、猫みたいな兄ちゃんも、よーコシマエに引っ付いとるやんか」

 ふと、リョーマに抱き着いていた金太郎が自分と同じように彼に頻繁に抱きつく菊丸のことを思い出したのかブスッとした表情を浮かべ、不貞腐れた様子で呟く。確かにリョーマの先輩にあたる菊丸は、普段からスキンシップが激しいのだが、彼のそれはリョーマだけには限らず(まぁ、抱きやすいという理由からリョーマがされることは多いが)心を許した者には別け隔てなく振る舞う彼なりの愛情表現だった。
 そこまで考えたリョーマは、機嫌を悪くする金太郎に何と答えようか考えあぐねていると、普段の彼からは想像もつかないほど苛立つ低音が耳元をくすぐったのだ。

「コシマエ抱いてええんはワイだけや」

 その、金太郎のどこか含みを伴った言葉が耳元に囁かれた瞬間、リョーマはゾクリと背筋が震えるのを感じる。今までに金太郎に感じたことのない獣染みた雄特有の色気を逸早く感じとったリョーマは、しかし、まさか彼からそんなものを感じるとは到底考えてもおらず、身体を硬直させるしかなかった。

「ア、ンタ…、何バカなこと言ってんの?」

 それでも何とか上擦る声で金太郎に言葉を返すが、ドクドクと心臓が嫌な鼓動を放っている。全身に熱が集まり、顔は風邪でもひいたように火照っていた。
 恐る恐ると背後から自分を抱きすくめる少年に視線を送る。しかし、何度見てもそこにいるのはここ最近見知った同じ年の少年で。けれど、リョーマの目には少年とはかけ離れた何か違う男のように見えた。

「バカちゃう。ワイは真面目や」

 ぐっと強い力に引かれリョーマは身体を強張らせた。ハッと気づいた時には、すぐ目の前に金太郎の顔がある。背後から抱きすくめられていた姿勢から、まるで追い込まれるような姿勢になりリョーマは冷や汗を流しながら数歩後ずさった。しかし、逃がすまいと言わんばかりに両腕はしっかりと握られている。華奢なリョーマが同じくらいの背丈とは言えパワーアタッカーの金太郎に力で勝てるわけながない。
 今もなお自分の目を覗きこむ金太郎の瞳は、試合の時に見せる爛々とした色合いを放つ。否、それよりも怪しく輝く合間にまるで捕食者のようなぎらつきを感じたとったリョーマはゴクリと小さく喉を鳴らした。

「なぁ、コシマエ。お前わかっとるんか?」
「ちょ…、何?近いんだけど…」

 すぐ目の前に迫る金太郎の野獣のような瞳に、脳内を揺さぶる低い男の声に、力強く身体を押さえつけるその強靭な肉体に、リョーマはカラカラと喉が乾くのがわかった。柄にもなく緊張している。どんな強靭な敵が立ちはだかろうと恐れることなく立ち向かう強さを持つリョーマは、その時確かに金太郎に言い知れぬ恐れを感じていた。よく見知ったものが全く別の何かに変化するという…。
 カラカラに乾いた喉で何とか言葉を口にしたが、うまく言葉として吐き出されたかリョーマにもわからなかった。
 ふと、ぎらつく瞳を細めた金太郎がリョーマの首元へと顔を埋める。その刹那…、ガリッとリョーマの首元に金太郎の歯が立てられた。

「ぃた!」

 あまり感じることのない場所に燃えるような痛みを感じたリョーマは、咄嗟に悲鳴のような喘ぎを漏らした。ズクズクと鎖骨付近が痛み、それはリョーマを蝕む。しかし、未だリョーマの首元に顔を埋めている金太郎は、途切れ途切れ悲鳴を上げるリョーマを楽しむようにまるでなぶるかのごとく執拗に舐めあげた。

「男はなみんな狼なんやさかい、ワイ以外の男に気許したらあかへんで?」

 最後にチュッと優しく吸い上げ口を離した金太郎が再度リョーマの瞳を覗きこむ。その琥珀色の瞳がゆらゆらと揺れていることに満足した金太郎は強ばるリョーマの頬をするりと撫でた。そして、ふと頬を撫でる手の親指で固く閉ざされた唇に触れる。その触れ方は、リョーマが今までに触れあったどんなスキンシップよりも情事的で、また官能的であった。

「な、に……それ……」

 呆然と目を見開くリョーマをギラギラとした野獣の眼が射抜く。固まったまま動くことの出来ないリョーマに金太郎はゆっくりと唇をよせた。触れるか触れないかの優しげな口付けは、しかしリョーマにとってすればまるで補食されるてしまうのではと思うほどの力強さを持っていた。そうして、リョーマの唇を離した金太郎は、驚きに硬直するリョーマを目にするとニカッといつも彼が浮かべる年相応の笑顔で力強く抱き締めた。

「お前んこと好いとるっちゅーこっちゃ!」

 無邪気に笑う少年は実はとても恐ろしい獣を飼っていた。まさか、そんなことあるはずはないと考えていたリョーマも青学の部員たちも、その後とんでもない事を見落としていたことに気が付くと、手遅れな状態に愕然とする他なかった。


++++++++++


「ちょっと、白石。君、後輩にどういう教育させてるの?」
「か、堪忍な。不二くん。か、開眼しとんで?え、ガチ怖いんやけど……」
「金ちゃんも男っていうことやったんやねー!」
「そんにゃー!!オチビが穢れるっっ!!」
「だ…騙された」
「…胃薬飲むか?大石くん」
「……校庭100周だ」
「まぁまぁ、ここは大人として見守ってやるばい」

 そして、リョーマと金太郎から数m離れた場所から顔を覗かせる一行がいたとかいなかったとか。更に言えば、黒いオーラを放っていたり、恐怖でひきつっていたり、黄色い声を上げていたり、顔を青ざめていたり、哀愁漂わせていたり、暖かく見守っていたりしていたとか。



その者猛につき要注意!
(可愛い顔で獲物を狙う獣)
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After word(あとがき)
金リョ。可愛いくせにめっちゃワイルドな金ちゃんと金ちゃんの獲物にされちゃったリョーマくん。そして保護者組。青学は可愛い後輩が手込めにされてご立腹。四天宝寺は金ちゃんがリョーマをゲットしたら仲良くなれる機会が増えると応援中。私のとこの金リョと周囲の人間はこんな感じ。
次は逆に色気たっぷりなリョーマくんと初な金ちゃんを書いてみたい
2012/05/21
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