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stardust

http://nanos.jp/xxvorxx/ | Photo by Sky Ruins
Prince of Tennis
Short story
めっちゃ好きやで(忍リョ←α)

「そんで、そん時金ちゃんがな!」
「マジかいな!そんなん知らんかったわ!!」

 全国大会が開催されるアリーナの一角には、選手や観客が休憩にと訪れるカフェがあった。珈琲から紅茶まで数多く品揃えるカフェは室内はジャズの音楽がかかる静かな雰囲気のため、自然と活気あふれるテニス部員たちは外のテラスを使用することが多い。その日も、全国大会に参加しているいくつかのテニス部がそれぞれテラスでわいわいと騒いでいた。

「四天宝寺は元気だな」
「そうっすねー…」

 どこか疲れた様子でそう呟くのは青学テニス部の副部長を務める大石と普段は元気溢れる2年の桃城。二人は一試合終えたばかりだというのに活気付くライバル校へと視線を送ると小さくため息を漏らした。

「元気なことはいいことじゃないか」
「そうなんすけどね?ちょっと五月蠅すぎるっすよ」

 すぐ隣でガヤガヤと騒いでいるというのに気にした素振りも見せずに優雅に紅茶を口にする不二に、桃城はぶすっとした表情で悪態をつく。普段から人当たりのいい彼にしては珍しい姿に不二は小さく首を傾げた。

「悪いな、桃城くん」
「あ…白石さん……」

 桃城の様子に気がついた四天宝寺の白石が申し訳なさそうな表情で小さく頭を下げる。そして、直ぐ様部員たちに「お前ら、ここは部室ちゃうんやからちょっとは静かにしぃ」と大きな声で注意をする。しかし、大人しくみえても彼も根っからの関西人。その注意を促す声の大きさはやはり桃城の耳を劈く程大きいものだった。
 ふと、桃城の隣に腰掛けていたリョーマが白石に注意されても悪びれた様子なく騒いでいる一行をじっと見つめている。何を熱心に見つめているのか疑問に思った乾がくいっとメガネを上げてリョーマに声をかけた。

「越前、どうしたんだ?何か気になることでもあるのか?」
「……いえ…別に……」

 「別に」と言いつつ視線は四天宝寺から逸らさないリョーマに乾だけでなく不二や桃城も「何だ?」と首を傾げる。どうやら普段から気配に敏感なリョーマもその時はなぜか一心に四天宝寺にだけその神経を向けているようだった。
 騒いでいた一団も乾や不二たちの様子にリョーマが少し可笑しいということに気がつく。そうしてようやっと、”誰か”は解らないがリョーマに熱い視線を送られていることに気がつくと、そわそわした様子で身を縮こませた。

(コシマエ、どないしたんやろ?)
(なんか気に障ることでもしたんか?)
(いや、オレやないっすわ…。謙也さんじゃないんすか?)
(は?なんでオレが……)

 ヒソヒソと身を寄せあって話し合う四天宝寺のレギューラー陣はチラリとリョーマに視線を送ると、未だに無言で熱い視線を送ってくるリョーマにカーっと全身が燃え上がるような気分に陥る。普段から相手の目から逸らされることのないその大きな猫目が少し潤んだ様子でこちらを見てくるのだ。それだけでなくとも、未だに幼さが抜けない少女のような風貌とその寛容で男前な性格に誰もが惹かれずにはいられない存在だ。そんな彼からそのような視線を送られれば誤解してしまうのも致し方ない。そわそわしだした四天宝寺のメンバーを前にすぐ隣に座る青学のレギューラー陣が何やらムッとした様子で黒いオーラを出しているのにも気がつくことはなく、彼らは更に身を寄せあって小さな声でささやきはじめた。

(だ……誰か気になるヤツがおるとか…?)
(ま、まじでか!?え!?誰!?)
(まぁ、謙也さん以外ってことは確実っすね)
(なんでやねん!おま!ほんま巫山戯んなよ!オレにやってまだ望みくらい……)
(リョーちゃんが恋ねぇ〜。いいわ〜。語り合いたいわ〜)
(浮気!…やないよな…?)

 謙也を始めとし顔を赤らめつつそわそわしている四天宝寺メンバーは確かに異様に見えた。あのクールな財前ですら無表情のままリョーマをじぃっと見つめている。更には、その隣で青学レギュラー陣が黒いオーラを放っているのだ。賑わうテラスの温度は数度低くなったように感じる。そんな中学生らしからぬ一同に一般人はそろりそろりと一人ずつ席を立って足早に去っていった。
 しかし、そんな周囲の様子に唯一気がつかない少年が口に加えていたストローをそっと離し小さく声を上げる。

「ねぇ」
「「「!!!」」」

 ビクッと肩を揺らした四天宝寺の部員たちは、そわそわと視線を泳がせたままリョーマへと顔を向ける。青学の部員たちも突然声をあげたリョーマに黒いオーラを拭いさりキョトンとした表情で後輩へと視線を送った。

「…なんや?越前くん?」

 ゴクリと唾を飲み込んだ白石がいつも浮かべる爽やかな笑みで答えるが、少し声が上積ってしまったのは致し方がない。それだけリョーマの瞳に宿る色合いは熱く燃えるような熱がこもっていた。なぜ、そこまで熱情がこもっているのかその場にいる誰もわからない。だからこそ誰もが誤解してしまいたくなる。四天宝寺の部員たちは「もしかすると…」という期待が。青学の部員たちは「まさか…」という不安が心の中に渦巻く。
 手元に置かれたメロンソーダをストローでくるりとかき混ぜたリョーマは、肘をついてその大きな琥珀色の瞳を柔らかく細めながら口を開く。

「もっと話しててよ」
「え?」

 一瞬リョーマが何を言っているのか理解できなかった謙也は間抜けな声を上げる。声には出さなかったものの、他の部員たちも驚愕に目を見開いている様子からもしかしたら他にも誰か声をあげていたかもしれない。しかし、そんなことすら気にする暇もなくアワアワと謙也は慌てたように声を荒げた。

「えっと、そりゃ構わへんけど…なんでや?」

 誰もが聞きたかった質問を呟いた謙也へとリョーマはちらりと視線を送る。誰もが固唾を飲んで見守る中、黙ったまま目の前に置かれたメロンソーダをかき混ぜていたリョーマは、少しだけほろけるような眼差しを浮かべると、それこそ誰もが今までに見たことがないほど優しげな笑みを浮かべてポツリと呟いた。

「オレ…、関西弁、好きなんだよね」
「え!そ、それって…!」

 リョーマの言葉に四天宝寺の部員たちの誰もがドクンと心臓を高鳴らせた。とろけるような眼差しで優しげに微笑みながら「関西弁が好きだ」と言うリョーマに、期待してしまうのは致し方がない。顔を真赤にして上ずった声を上げた白石が、リョーマへと真相を問い詰めるためにがたんと机から立ち上がった瞬間、よく澄んだ低いバリトンがリョーマの名前を呼んだ。

「リョーマ」
「侑士!」

 パッと勢い良く立ち上がったリョーマが嬉しそうな声で歩み寄ってくる青年の名前を呼ぶ。その声に導かれるように視線を向ければ、そこには青学のライバル校でもある氷帝学園の天才と言われている忍足侑士がゆったりとした足取りでこちらに向かってきていた。リョーマは忍足の姿を見つけると、座っていた椅子から立ち上がりパタパタと軽やかな足取りで忍足へと近づいていく。そうしてまるで甘える子どものように自分よりも大きな身体にぎゅっと抱きついたのだった。

「遅なってすまんかったな」
「ううん。別にいいよ」

 四天宝寺の部員たちも青学の部員たちも突然目の前で起こった出来事にポカンと目を見開くことしかできない。特に四天宝寺の部員たちからすれば、先ほどまで胸に抱いていた淡い期待がモロモロと崩れ去っていったのだ。彼らの受けた衝撃はとても大きいものだっただろう。
 しかし、そんなことにも気が付かず当事者の二人は、桃色のオーラを放ちながら和やかに会話している。どこからどう見ても恋人同士の逢瀬に、甘酸っぱい気持ちを噛み締めていた部員たちはガクッと肩を落としたのだった。

「ね…、いつもの言ってよ…」
「ここでか?」

 忍足にじゃれついていたリョーマが、人目も憚らずグィッと忍足の腕を引っ張って、自分の方へと引き寄せる。期待を込めた眼差しで自分よりも遙かに大きな青年を見上げてみれば、彼はその丹精な顔立ちに優しげな笑みを浮かべてそっとリョーマに近づくようにと身体を屈めた。

「しゃーないな」

 そうしてふぅっと小さく息を吐き出した忍足は、自分よりも小柄な恋人の耳元に口元を寄せると、小さく愛の言葉を呟いた。



めっちゃきやで
(そっと耳元で囁いたその言葉に少年は小さくはにかんだ笑みを浮かべた)
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After word(あとがき)
忍足にぞっこんのリョーマくんと男前な忍足さん。それと勘違いしちゃってドキドキした四天宝寺陣です。リョーマくんは四天宝寺の関西弁を聞いて忍足を思い出していたとか。ちなみにタイトル最初は「めっちゃ好きやねん」でした。でも、あんまり関西人だけど言わないよねwと思って普通っぽいのに変更。そんなラブラブな忍リョが大好物です。ちなみにリョーマくんは関西弁が好きなんじゃなくて、忍足が話すから関西弁が好きになりました。
2012/05/29
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