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stardust

http://nanos.jp/xxvorxx/ | Photo by Sky Ruins
Prince of Tennis
Short story
誰よりも男前なHoney(蔵リョ)

「蔵の手ってすごいキレイだよね」
「リョ、リョーマ?」

 うっとりと自分の手を優しく握りながらそう呟いた恋人は、どんなマドンナでも逃げ出してしまいそうなほど甘美な笑みを浮かべるとchuと、どこぞの俳優がするかのような流れるような動きでその長い指先へと口付けた。

「テニスしているわりに細くて長くて、あんまりゴツゴツもしてなくて」

 まるで追い詰めるようじわりじわりとにじり寄る自分よりも小柄な少年の思いがけない攻撃に白石は唖然とする。普段からクールビューティーの名を欲しいがままにしている恋人といえば、色恋沙汰には滅法興味を抱かない。彼と恋仲になるまでに白石が乗り越えてきた壁は高く分厚く、そして彼が歩んできた道は何よりも険しかった。テニスと愛猫以外には興味を抱かない少年を押して押して押しまくって、普段は冴え渡っているというのに自分に向けられる好意に鈍感なその少年にこの思いを伝えるためにそれこそ並々ならぬ努力を費やしてきた。立ちはだかる彼の先輩たちから何とか逃れ、数多ものライバル達を蹴落とし、そうしてようやっと彼の隣に立つことを許された。けれども付き合い出してからもこの恋人との甘い時間など、到底持つことは出来ず、会えばテニス。泊まりに来ても柔らかなキスを交わすだけ。それも白石からのアクションでしか起こり得ない甘い時間に、それでも白石は満足していた。この少年の隣に立つことを許され、彼の特別になりえたそれだけで幸せだったのだ。というのに、この状況は一体何だろうか?

「そういえば、肌もどこもかしこも白くて綺麗だよね。触り心地もいいし」
「ほ、ほんま突然どないしたん?リョーマ?」

 柔らかな午後の日差しが窓から差し込む。恋人と二人腰掛けた白石の愛用するベッドの上で繰り広げられる甘い時間は、普段この少年から齎されることはない。けれども、今まさにベッドの際まで追いやられた白石の両手を握る少年の琥珀色の瞳に宿る色合いは、白石が想像するよりも情熱的な熱を帯びていた。ドクンと心臓が跳ねる音を聞く。まるで全身が脈打つような激しい動悸に、戸惑いつつも恋人から目をそらすことが出来ない。じんわりと浮かんだ汗に体温が上昇しているのに気がついた。そう、緊張しているのだ。この恋人から寄せられる甘い言葉や、熱い眼差しを受けて、普段浮かべる余裕なんて浮かべられないほど白石は緊張していた。なんて情けないのだろうか。と、どこか遠い意識の中で考えつつも、仕方がないことだと誰かに言い訳したい気分に陥る。それほどまでに、初めて見せる少年の愛情表現は甘美で魅力的なのだから。

「オレと違って色素の薄い髪の毛も、サラサラで太陽の下で蔵がテニスしていると、蔵が輝いてるみたいだっていつも思ってたんだ」

 ふわりとリョーマの細く白い指が白石の髪に触れた。耳元を擽るように髪を掬う少年の指先にゾクリと背筋が震えたのを感じた白石はぎゅっと目を閉じる。そうして、こんなことになるなら!と数時間前の自分を呪いたくなった。けれども、どれだけ呪ってもこの状況が打破されるわけもなく、白石は普段の彼では考えられないほど焦った様子で、恋人から齎される甘い時間に耐えていた。ひたすら、耐えていた。それは、今回の原因が自分であるという負い目であったが、それ以上にこの恋人の紡ぐ甘い言葉が嬉しかったからだ。普段リョーマはこのような睦言を言うことはない。言ったとしてもひっそりとした慎ましいものであることが多く、このような積極的な言葉を白石は聞いたことはなかった。そんな少年からの賛美の言葉は、白石の心臓を壊そうとする破壊力を持っていたが、それに踏まえ彼を喜ばせる要因ともなっていた。恥ずかしいけれどもっと聞きたい。耳を塞いでしまいたいけれど、もっと彼の言葉を聞きたい。その相反する思いに苛まれながらなんとか耐えていた白石であったが、とうとう彼の羞恥心が限界にまで膨れ上がる。

「それに……」
「オレが悪かったから堪忍したって!」

 未だ続きそうな恋人の甘い言葉に耐え切れなくなった白石が、むぐっと彼の口を塞ぐ。その可愛らしい口からこぼれ落ちる柔らかな声が奏でる音色の甘美さが、想像していた以上に白石の精神を食い破っていたのだ。これ以上耐えることは出来ない!そう真っ赤な顔に貼りつけた白石を見たリョーマは、口を塞がれたままクスリと微笑む。

「しょうがないな。今度約束破ったらみんなの前で言っちゃうからね」

 無邪気に笑った可愛い恋人が、誰よりも男らしいことに気がついた白石は、赤面したままその美しい男前な恋人を力強く抱きしめたのだった。



誰よりも男前なHoney
(その目で見つめられただけで僕のハートは爆発寸前!)
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After word(あとがき)
初蔵リョ。白石さんが別人になった。もうこれリョ蔵でしょ…としか思えないのですが、蔵リョなんです。リョーマくんを何かで怒らせてしまった白石さんが報復を受けると。普段余裕な感じの笑みを浮かべるイケメンな白石さんが赤面するのを見たかっただけでした。
2012/07/11
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