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Prince of Tennis Short story Lonely Brother(リョガリョ) 「うわぁーん!!」 誰かが泣いている。まだ幼さを残す子供特有の高い声で、何かを伝えるために大きな声で泣いている。オレはその涙を止めたくて、虚ろな意識で声の主を探した。 「ばかリョー、ガ!」 泣くなよ。手探りでその子供を探してみても、オレの手はそいつに届くことなくスカッと空を切る。だから、未だに「ひっく」と肩を震わせながら泣いている子供を前に途方に暮れるしかなかった。 そのオレとは違う琥珀色の瞳から零れ落ちる大粒の涙を拭いたくて、その小さな身体を縮こませながら胸に不釣り合いな大人用のテニスラケットを抱いて寂しさを牧らわせる子供を胸に抱きたくて、オレは再度手を伸ばして見るけれど、やはりオレの手は子供に触れる前に何か透明な壁に阻まれて届くことはない。 それが無性に歯痒くて、オレはその壁を壊すようにダン!と力強く壁を叩いた。しかし、何度叩いてみてもその壁はびくともせず聳えたって、それが余計に腹立たしくてオレは盛大に舌打ちする。 「なんで…いっちゃうの…?」 震える身体はとても小さくて、琥珀色の瞳は今にも涙で溶けてしまいそうだ。オレはそいつの手がとても小さいことを知っている。身体や手だけじゃなくて足や爪なんかもオレよりもずっとずっと小さい。抱き締めたらとても小さくて柔らかで、少し乳臭いけど、すごく暖かい。まるで春を抱き締めてるみたいだと実父に告げれば呆れられたのはついこの間の出来事だったような気がする。今は涙で霞むその声も本当はとても甘い音色を奏でるのだ。舌足らずで生意気ばかりなのに、オレの名前を呼ぶときだけ他にはない甘さを含んでいる。オレはそれが堪らなく愛おしかった。 『泣くなよ…、チビスケ』 透明な壁に憚れてオレはそな子供に触れることすら叶わない。それだけでなく声すら届いていないようで、何度そう告げてもそいつは気づくことなくただ目元を真っ赤に染めて涙を流すのだ。 泣くなよ。オレはお前が泣いているのは苦手なんだ。あまりにも可愛いから意地悪して泣かすことは何度もあったけど、そのオレの好きな琥珀色の瞳から涙が零れ落ちるのを見ただけで、オレは途方に暮れてしまう。それに、オレはお前の涙よりも笑った顔のほうが好きだから、お前にはずっといつまでも笑っていて欲しかったんだ。決して泣かせたい訳じゃなかった。なぁ、だから泣くなよ。お前が泣いてもオレはお前を慰めることも抱き締めることも出来ないんだから、だからせめて…、夢の中でくらい笑っていてくれよ。 「リョーマ……」 ++++++++++ 「…ぁ?」 ピピピピと耳元で喚く目覚まし時計の音に、寝惚けていた意識が唐突に浮上した。数度瞬きをして辺りを伺うと、そこは昨晩入った行きづりのホテルの一室で、安さゆえにベッドのスプリングは非常に固かった。どうやら身体には合わなかったようであまり疲れはとれていないような気がするが、仕方がないと目覚まし時計を止めるために手を伸ばした。 「リョーガ」 「……ぉぅ」 ふと隣を見れば金髪の長い髪の女が横たわって笑みを浮かべている。そういえば昨夜は柄にもなく酒を浴びるように飲んで、偶々居合わせた名しか知らぬ女と一晩を共にしたのだ。チラリと視線を女の身体に向けてみれば、案の定一重も纏わぬ姿だった。 「魘されていたけれど大丈夫?」 「あぁ……、夢見が悪かっただけだ」 あんな夢を見た後からか、妙にズシンと心が重くなる。罪悪感などオレらしくもないと嘲笑いながら、起こってしまったものは仕方がないかと服を着るためにベッドから身体を起こした。 「あら?もう帰るの?」 「これから空港行かねぇとなんねーからな」 パンツははいていたため、無造作に脱ぎ散らかしたズボンを拾いあげ乱暴に足を通す。慣れた手つきでベルトを絞めるとソファーの背もたれに放られたアロハシャツを手にとって、リョーガはヒラリと手をふった。 「どこに行くのかしら?」 コテンと女は枕に顔を乗せ小さく呟く。情後特有の色気を振り撒きながら問う女を前に、彼女にチラリとも視線を送らずリョーガは力強く声をあげ、そして扉のノブに手を伸ばした。 「日本だ」 釣れない様子のリョーガに、未だベッドに転がる女はクスリと笑みを浮かべて手をふる。それから少ししてホテルの扉はパタンと小さな音をあげ閉じられた。 外は晴れやかな快晴だ。乾燥した空気を吸い込めばあの頃の春の思い出が脳裏を過る。夢に見た子供も今は成長して、大きくなっているだろうと考え、リョーガはぐぐっと身体を伸ばす。 「今から行くからな、チビスケ」 ▼After word(あとがき) リョガリョ。多分映画で二人が再会する前。私は二人はちゃんとした血縁関係であるほうが好みです。リョーガはブラコンというか若干犯罪者臭のするリョーマ溺愛者でたまに南次郎とかをハラハラさせればいい。リョーマくんは相変わらず天然ボケボケで偉くスキンシップの激しい実兄を疎ましく思いつつ好きにさせているとか、すごく私好みです。 |
2012/05/17 ▲ |