「柿野くんってなんだかカメオみたいなイメージかも」
彼女が僕を見て放った最初の言葉は中々に不思議なもので、それでもまるで重力に逆らうみたいにぐんと惹かれたのは僕が数ある装飾品の中で一番カメオが好きだったからかもしれない。磨き抜かれ清廉ささえ感じる白の高貴を僕はうっとり思い返しながら、目の前の彼女にはプラチナのアンクレットか、大粒のダイヤモンドを散りばめたネックレスがさぞかし似合うだろうと想像した。
僕は見目麗しい人間が好きだ。更に言えば指、首筋、デコルテゾーン、背中、脚が美しい人間はもっと好きだ。彼女の身体は女性的と言うには肉付きが足りなさすぎる。彼の大女優オードリーにも似た華奢な体躯の彼女は美しいデコルテと脚を持ち合わせていたし、何より男の僕に装飾品を使った比喩が面白くて、その瞬間で僕はすっかり彼女を気に入ってしまったのだった。
美しい人間を愛でるのが僕は好きだ。だから偶然にも同じ科になった学園にただ一人の女子生徒、夜久月子という貴重で稀少な宝石を磨くのに僕は夢中になった。
元から彼女は美しかったが、僕が美の知識を与えれば与える程美しく進化していく。それが面白くてたまらない。なので僕は彼女を一人の女性、ましてや恋愛対象として想像した事は一秒たりともなかった、自信を持って言える。だから少し驚いたのだ、
「ねぇ柿野くん、私達付き合ってみる?」
お付き合い。
僕と同年代の少年少女がするそれを僕は想像する事が出来なかった。
色恋沙汰に興味がない訳ではない。むしろ昔から興味が強い方で今までに何度か年上のお姉様だったり、はたまた初老の紳士だったり、マダムだったり青年実業家だったり、男女問わず色んな方々にお付き合い頂いたというか遊んで頂いた事はあるのだが、同い年や年下とそういった関係になった事はなかったし、どうにもそんな自分が想像出来なかった。
「どうしてまたそんな事を思ったの?」
「んー、柿野くんなら絶対ばれなさそうだし」
にやりと彼女は猫のように笑う。机に肘をつく彼女の手首で揺れるブレスレットは僕が誕生日にあげたもので、僕の右薬指に嵌まっているシルバーの指輪は彼女が僕の誕生日にくれたものだった。確かにそういうやり取りがあるのに周りの誰もが僕たちの関係を疑った事はない。
まあ幼なじみ二人にじとりとした目線で見られた事もあったが、それは彼女から僕がプレゼントを貰ったというその事についてだけで、柑子が姉妹のようだと言う僕たちの関係を妬まれた事は一度もないのだった。
それを考えると、僕は彼女に親しい人間の中で一番恋人というポジションから遠い気がした。
「何で僕なんか選んだの」
一応聞いてみれば彼女は長い髪を耳にかけながら答えた。
「だって柿野くん、綺麗だもの」
前にいる僕を見上げるとは違う、その瞳の底にずしりと昏いものを見て、ああこれは嫉妬なんだなあ、しかも女が女に向ける嫉妬によく似ているなあと思った。
外見は理想的に美しいくせに中身はそこらの少女となんら変わらない彼女が何だかとても愛おしく思えて、(ああでもこれはきっと恋人に思うそれではなく、可愛らしい小動物に抱くそれに似ている)僕は笑いながら頷いていた。
「僕でよければ、喜んで」