「ここのねー、新作のピアスがじゃらじゃらしてて可愛いの」
「あ、ほんとだ……でも君ピアス開いてたっけ?」
「開いてないよ、んー開けよっかなぁ」
「無理無理、痛がりの夜久が開けられる訳ないね」
「あーでもね欲しいんだよ、ピアス。耳たぶのびるくらいじゃらじゃらしたの」
「痛そ、でもこのピンクゴールド可愛いよね。ここのチェックのコート良くない?クラシックなチェックって上品だし」


ティーン向けより一つ年齢層が上の雑誌を開いてお菓子をつまみながら会話をするのは天文科の柿野と夜久だった。
少しばかりナルシストでセンスも良く女性らしいものに関心を示す柿野と可憐な容姿と少々世間知らずな部分を抜かせばどこにでもいるような少女である夜久が仲が良いのは、此処が女子生徒が一人しかいない学園である事を考えれば必然的だと周りの誰もが思っていた。普段は夜久に対して過剰に過保護な幼なじみも、仲の良い天文科で更に相手が柿野となれば夜久と話していてもさして気にはとめないようだった。今日は二人共用事があるらしく夜久を柿野に任せ教室を後にしていた。

「おー、お前等まだ喋ってんのか。乙女談議もいいけどあんまり遅くなるなよ」

じゃあな、と残っていたクラスメイト達も帰り教室は二人きりになる。

「……案外気づかれないもんだね」
「柿野くんがちょっとオネェ入ってるからじゃない?」
「僕のせいにしたいの?」
「だって私より肌きれいでちょっとムカつく」
「そんな僕の綺麗な所が気に入ってるんでしょ?」
「そうとも言う」
「君も変わり者だよねぇ」
「柿野くんのが変わり者だよ」
「自覚はあるけど」
「私実は付き合ってます、って言ったら皆どうなるのかなあ」

夜久は悪戯っぽい笑みを浮かべて微笑んだ。小生意気なヌードピンクが三日月を描き、彼女は手首の華奢なブレスレットをしゃらしゃら揺らしながら長いミルクブラウンを耳にかけた。
とんだ小悪魔だと柿野は苦笑混じりに溜め息を漏らす。

「君の好きにしなよ」

夜久が枯れるその瞬間まで、柿野は側にいる心積もりだった。刹那的な美しさが消えるその瞬間は一体どのように見えるのだろうか。柿野はそればかりが気になって仕方ないのだった。
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「見えない臓器の名前は」
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