*捏造、ジャンル、CPごちゃまぜ注意 log
(stsk 幼なじみ※性転換につき全員の性別が逆転しています)
蝉の声はもう聞こえなかった。遠く水平線に消えていく太陽はなんだか粘着質な橙色をしているのにその光は優しくて、隣を歩く鈴の横顔、そのすっとした鼻筋から薄い唇の作る曲線をぞっとするくらい美しく照らしてみせた。長い睫毛が頬に影を落としている。その目許は乾いていて、俺は生まれてこの方そこが濡れたのを見た事がなかった。
鈴の反対に彼方はよく泣く。あの色素の薄い雲母のような瞳からぼろぼろと惜し気もなく涙を零し歯を食いしばって泣く。今日だってそうだった。寝起きで僅か汗に濡れた銀色の髪を撫でてやると、俺の手を点滴の管が繋がれていない方の手でひっ掴んで悔しい、と涙を零した。規則的に液体の流し込まれるうでは白く細く、俺は何故か熱帯魚を思い出す。
悔しい、と嗚咽に紛れて、でも確かに聞こえた。
「あたしは、この足で立って、あんたと同じ世界を見たいのに、一分一秒だって無駄にしたくないのに、」
それを邪魔するこの身体が憎いのにあたしはこの身体がなきゃ生きられない。
悔しい、悔しい。泣く時に目を隠すのは彼方の癖だった。感情を溢れさせる彼方に対し鈴はどこまでも静かに穏やかで凪いだ海を思い出す。
「……あのね」
しばらく黙っていた鈴がようやく口を開いたのは寮に着くまであと僅かの時だった。
「こういう事言うのは良くないってわかってるんだけど」
何か今日は変だね、私
鈴は苦く笑って、それから俺の顔をちらりと見て息を吸った。
「私は彼方がすごく羨ましい、よ」
やはりその睫毛が濡れる事はなく、ふるふると震えるだけだった。