ブルーノと仲良くなる話
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「ただいまー」
リューナが台所に立ち、いよいよ料理を開始しようとしていたその時、玄関から明るい声が聞こえた。
「ブルーノか、お帰り」
「遊星、ただいま」
かすかに聞こえるそのやりとりを聞きながら、リューナは器具や材料を取り出す。コンロと冷蔵庫の往復をする中で、きっとDホイール関係のものを買ってきただろう、と推測した。何しろ遊星がブルーノに頼むほどの買い物だ。そう考えるのが自然だろう。
そのままDホイールのメンテナンスかプログラミングをするのだろうと思いきや、彼は意外にもリューナがいる2階に上がってきた。
「リューナ、ただいま!」
彼の左手には白い袋がぶら下がっている。もしかして食材なのだろうか、とぼんやり考えつつ、少女は声をかけた。
「おかえりなさい、何を買ってきたのかしら?」
「ふふ、なんだと思う?」
「何かしら…でもこの袋、そこのスーパーのものよね?」
テーブルに袋を置き、ニコニコして問いかけるブルーノからは、威圧感なんてものは感じられない。やはり同じくらい身長が高いと言ってもそこがジャックとの大きな違いなんだな、と彼女はしみじみ思った。
「…あ、手洗い用の洗剤かしら。もうだいぶ無くなってきたから」
「それも買ってきたけど違うよ、皆が喜ぶものさ」
皆が喜ぶもの。
この男所帯の中で、皆が喜ぶもの、なおかつスーパーで買えるもの。
リューナには一つしか思い当らなかった。
「分かったわ、お肉でしょう」
「あたり!今日唐揚げにしようよ!」
じゃじゃーん!と効果音までつけて袋から鶏肉を取り出すブルーノに、少女は思わず吹き出してしまう。
「ふふっ、分かったわ。それじゃあブルーノ、手伝ってくれるかしら?」
「うん、いいよ。何をすればいいかな?」
身長的にも力的にも頼もしい協力者が表れて、リューナは安心する。何かまたあった時、ジャックを頼ってもいいのだが、そうすると呼びに行く間作業を中断しなければいけなくなるからだ。あとSと言われたことを、少しだけ引きずっているということも原因の一つにある。
「それにしても鶏肉なんてよく買えたわね」
作業の手を止めずに話す。同様に、ブルーノも唐揚げに必要な器具、特に高い場所にあるものを準備したりしながら答えた。「遊星に臨時収入があって、それが意外と多かったんだって。」
つまりこの肉は遊星の奢りだと。
「…いいのかしら」
それぞれ個人的に食べたいものをそれぞれの小遣いの中で買うことはあるものの、原則として生活費やDホイールの改造費はクロウが管理している。別にそれに不満はないが、逆にいえば、個人で欲しいものは個人で買え、ということである。もちろんそれを承知している遊星にだって欲しいものはあるはず。小遣いで肉を買ったとなれば、皆で食べずに遊星個人に出すべきではないのか。悩んでいるリューナに、ブルーノは声をかける。
「大丈夫だよ、遊星は皆で食べたいって言って僕を送りだしたんだ。」
それにこんな量、とても一人じゃ食べきれない。
そう続けると、鍋に水を張る。おそらくスープ用なのだろう。隣には、既に油が入った揚げ物用の鍋がスタンバイしていた。
「…そうよね」
にこ、と笑うと彼もにこっと笑い返す。アルカディアムーブメントでは絶対になかったやりとりに、リューナは心底充実感を覚えた。
「私ブルーノに会えてよかったわ」
「え、どうしたの急に?僕もリューナに会えてよかったよ」
ふふ、と笑いあって夕飯の支度を進める二人の声がポッポタイムに響く。
Dホイールの側で工具にまみれている遊星は、その声を聞きながらほのぼのした気持ちで整備を進めるのだった。
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もともとブルーノとリューナは仲良いのでタイトル詐欺っちゃタイトル詐欺。
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