海と星@
─────---- - - - - - -
そろそろデュエルアカデミアの授業が終わってアキや龍亞・龍可がやってくる頃だろう。
そう考えながらD‐ホイールの整備をしていた遊星が耳にしたのは、彼女らの声でなく、ただ荒々しく扉を開ける音だった。
「……十六夜アキはいる?」
一通りガレージを見渡した少女が遊星に問う。
その目は憎しみに満ちていた。
「いや、まだ」
そこまで言って遊星は口をつぐんだ。
どうやらアキと話をしたいようだが、彼女の様子だとただの世間話ではあるまい。
アキに危害を加えさせないためにすっとぼけても良かったのでは、と遊星は思った。
が、時はすでに遅いらしい。
「…まだという事は、いずれここに来るって事ね」
という独り言のようなものが聞こえた。
「君は何者なんだ?」
D‐ホイールから視線を外し、少女を見つめる。
「知りたいならアキを呼んできて、今すぐ」
少女の口調と表情は極めて真剣で、遊星の方が気後れする程だった。
クロウは配達に行っているし、ジャックもどこかへ出掛けていて不在である。
アキに早く来て欲しい気持ちと、来ないで欲しい気持ちとで遊星は混乱してしまいそうだった。
20分くらいたっただろうか。
とりあえず少女を椅子に座らせ、自身もD‐ホイールの整備を再開した遊星は、扉が開く音を聞いて、希望と不安の入り交じった目を向けた。
「来たわよ、遊星……!?」
紅い髪の少女は彼の他に人がいる事を認めると、目を見開いた。
「待ってたわ、十六夜アキ……黒薔薇の魔女」
アキが口を開く前に、少女が呟いた。
立ち上がった拍子に椅子が倒れたが、少女はそれを意に介さない様子で続ける。
「やっぱり…アキ、あんたはディヴァインを裏切った!」
ディヴァイン―その名を聞いたアキの肩が震える。
裏切った、という話から遊星もアルカディアムーブメントの一員だったのだろうと悟った。
「あんたはディヴァインを見殺しにした!そして今のうのうと生きている!」
少女のデュエルディスクが光る。
左手の5枚のカードが遊星には剣に見えた。
「…っ!」
アキもデュエルディスクからカードを5枚手にとる。
「「デュエル!」」
「漆黒の華よ、開け!現われよ、ブラック・ローズ・ドラゴン!」
後攻1ターン目にニードル・ギルマン(ATK1700)にダイレクトアタックされたアキはエースモンスターを呼び出す。
一気に決めるつもりらしい。
しかし、海竜を統べる少女は臆する事なく黒薔薇の龍を見ていた。
「ブラック・ローズで攻撃!ブラック・ローズ・フレア!」
その言葉と同時に黒薔薇の鞭がニードル・ギルマンに向かう。
少女は慌てる事なく、デュエルディスクに手をかける。
「リバースカードオープン、「海竜神の加護」を発動。…エンドフェイズまであらゆる破壊からレベル3以下の水属性モンスターを守るわ」
ネオダイダロスの幻影がニードル・ギルマンを包む。
「けど、ダメージは受けてもらうわ!」
少女のライフが700削られる。
「…ターンエンド」
このデュエルを遊星は見守るだけしか出来ないが、なんとなく、アキが負ける気がした。
「ドロー」
冷たい少女の声が響く。
「手札から、「伝説の都アトランティス」を発動。ニードル・ギルマンをリリースし、海竜‐ダイダロスをアドバンス召喚。…ダイダロスの効果を発動するわ。」
少女の手には既に伝説の都アトランティスがあり、墓地へ送る準備が整っている事を示している。
アキはそれをただ黙って見ている事しか出来なかった。
「自分フィールド上の「海」を墓地へ送る事で、ダイダロス以外のカードを全て破壊する。…タイダル・ウェイブ!」
龍とて例外ではなく、ブラック・ローズ・ドラゴンは海に飲まれ姿を消した。
アキの顔に絶望の二文字が表れる。
「……さよならよ、魔女」
少女は天に右手をかざす。
それをアキの方に振り下ろし、ダイダロスに攻撃を促す。
ダイダロスは応えるように口にエネルギーを集め始めた。
「リヴァイア・ストリーム!」
水のエネルギー弾がアキに命中する。
倒れる間際、彼女は「竜宮の使い」と呼ばれていた少女の、一見悲しみともとれる表情を見た気がした。
←