檻の中の蝶は不幸か否か
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※プレイヤー=リューナ(ただしポッポタイム住まい)
※主要キャラは全員攻略済 という設定です
「感謝するがいい、リューナ。このオレがパートナーになってやるぞ」
今日もカード拾いをしにネオ童実野シティを歩き回るリューナに、一人の男性が声をかける。
「…プラシド、さん」
カードやアイテムをもらうことはあっても、パートナーになるなどという申し出を彼から受けたことがない彼女は、珍しそうに彼を見る。
「…なんだその顔は。嫌なら嫌だとさっさと言え」
「いえ、珍しいこともあるんだと思って」
別に私は構わないわ、と告げると、プラシドはニヤリと笑ってリューナの後に続いた。
「そうだ、遊星にまだ会っていないから彼のところに行きたいのだけど」
「…勝手にしろ」
セキュリティの人から遊星が繁華街にいることを聞き出したリューナは、地図を広げ場所を示す。現在位置からは、少し離れていた。
フン、とプラシドは抜刀すると、その場で縦に振り下ろした。
「!?」
「連れて行ってやる」
ぐい、と少女の手を引っ張る。あまりに突然のことで、リューナは抵抗することも出来ずに空間の中に引きずり込まれた。
「ほら、ついたぞ」
「ありがと…」
しかしそこはよりによって遊星の目の前で。おそらく彼にしてみれば、なにもない空間からリューナとプラシドが出てきたようにしか見えなかっただろう。
「…リューナとプラシドか、なぜお前たちが一緒にいる」
明らかに不快な顔をして遊星はプラシドを睨みつける。その横のリューナには、カードパックをちゃっかり渡していた。
「俺の勝手だろう?…なんだ、パートナーになれなかったのがそんなに悔しかったのか?」
プラシドが遊星を煽る。相当苛立ったのか、デュエルディスクを構える彼を見て、リューナは慌てて口を開いた。
「待って、デュエルするなら私としてくれない?」
「…構わないが」
「さっき遊星からもらったパックから欲しいカードが出てきたのよ。ちょっとデッキをいじるから待っててくれる?」
「分かった。準備が出来たら声をかけてくれ」
その場でカードを広げ、ああでもないこうでもないと試行錯誤する彼女を見て、遊星はつい助言したくなる。しかし、今のパートナーはプラシドであるため、それが出来ないのが何より歯痒かった。
相談するリューナとプラシドはとても仲が良さそうで、何かどす黒いものが湧きあがるのを彼は自覚する。
「…出来たわ!お待たせ遊星、デュエルしましょう」
「ああ、良いだろう」
しかしそれを悟られぬよう、ポーカーフェイスで彼女と向き合う。相当上手くデッキを調節できたのか、リューナは自信に満ちた顔をしていた。
「さすがだな。俺もいい経験ができた」
結果として、勝ったのはリューナだった。皮肉にも、遊星が渡したパックから出てきたカードが勝利の決め手となったのである。
「フン、貴様にしては上出来だ」
さりげない手つきで、プラシドはリューナの頭を撫でた。嫉妬を通り越した何かに支配されそうな遊星だが、敗者である自分は何も言うべきではないと、その行為にはかたく口を閉ざした。
「遊星、ありがとうね。相手してくれて」
「いや、礼を言われるほどのことじゃない。」
知ってか知らずか、自分に笑いかけるリューナは、とても嬉しそうだ。つられて遊星も笑うが、次の瞬間、彼は「計画」を実行しようと心に決めた。
「プラシドさんも、ありがとう。貴方のおかげで勝てたのよ」
「当然だ」
こともあろうに、彼女はプラシドにも微笑んだのである。デッキを見て、相談に乗ってもらったリューナにしてみれば当然のことなのだろうが、遊星にとってはそうではなかった。
夜が更け、プラシドと別れて帰路につくリューナは、突然うなじに衝撃を受けた。
「…!?」
気を失い、その場に倒れる彼女を、襲った張本人が抱えてDホイールに乗せる。
そのまま走り去ると、後には何も残らなかった。
「…う…」
意識が戻りつつあるリューナは、のろのろと起き上がる。そこは見慣れない場所で、彼女は混乱した。
「…ここは、どこなの」
おそらくマンションの一室なのだろう。ベッドがあって窓があって、廊下に続くドアがあって。テレビやパソコンはなく、時計が時を刻む音だけが部屋に響く。普通とは違うのは、窓もドアも、それからおそらく玄関も、内側からは開けられないことである。
どうやったのか分からないが、外側から鍵と針金で固定され、びくともしない。
「閉じ込められてるの、ね」
状況を飲み込み始めるが、理解すればするほど絶望していくばかりで。
サイコパワーで窓をぶち破ろうにも、遊星たちに連絡をとろうにも、デュエルディスクはない。どこにも見当たらず、連れ去られた時に奪われたのだろうと考えるが、不可解な点があった。
デッキは、机の上に置いてあるのである。
枚数を数えても、ちゃんとそろっている。とうとうリューナは、犯人の思惑が分からなくなった。
「犯人は、私がサイコデュエリストだと知ってる人なのかしら」
そうでもなければデュエルディスクだけがなくなるなんてことはあり得ない。両方置いてあるか、両方無くなっているかのどっちかだ。
「まさか、アルカディアムーブメントの残党が…?」
「気がついたのか」
警戒しながら声の方を振り向く。しかし声を発した本人は、リューナの良く知ってる人物であった。
「遊星…?」
助けに来てくれたのか、と思ったが、それにしては様子がおかしい。彼は、どこかすっきりしたように笑っていた。
「お前が、悪いんだ」
ひょい、とリューナを持ちあげると、ベッドに連れ戻す。どさ、という音と共に、ベッドが沈んだ。
「お前が、あんな奴に愛想を振りまくから」
遊星に圧し掛かられ、手を固定される。ぎし、という音が、背中のほうから聞こえた。
「お前は、俺と一緒にいればいいのに」
「遊、星…?」
「ジャックでもクロウでもアキでも龍亞でも龍可でもプラシドでもルチアーノでもホセでもシェリーでもアポリアでもなく「俺」と一緒にいないとだめなのに」
その瞳は、狂気を孕んでいる。ぞく、と恐怖がリューナを支配するが、お構いなしに遊星は続けた。
「その目も、口も、手も、全部俺のためだけにあればいい。俺だけに向いていればいいんだ」
うわごとのように告げる彼を、リューナはどうにも出来なかった。時々降ってくる口付けを受け入れながら、この状況をどう打破するか考えていても、アイデアは浮かんでこない。
「…このカード、何か分かるか?」
差し出された一枚のカード。受け取って名前を見てみると、そこには「シューティング・スター・ドラゴン」とあった。
「…貴方がクリアマインドの境地で手に入れたカードよね」
「そうだ、そしてこのカードで、俺がプラシドをどういう目に遭わせたか、覚えているか?」
そのカードで、プラシドに5回攻撃を浴びせて、彼の上半身と下半身を千切れ飛ばした。
言われるまま記憶を引き出すと、リューナの背筋が凍った。
怯える少女の顔を見つめながら、遊星は続けた。
「別にリューナに危害を加える訳じゃない。お前に近付いて馴れ馴れしく口をきいたり触れたりする輩に同じことをするだけだ」
にこ、と彼が笑う。だって、と言葉を紡ぐが、リューナは耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいだった。
「俺のリューナに勝手に近付いた罰なんだ、仕方ないだろう?」
ちゅ、と口を吸われる。まるで遊星の言葉に合意するための儀式のようだ、と少女は思った。何度も何度も繰り返されるその行為に、リューナの思考も段々おろそかになっていく。
「心配しなくても、お前を傷つけたりはしない。…リューナがいけない事をしない限りはな」
「いけないこと…?」
「お前が俺以外のやつに話しかけたり、笑ったり、触れたりすることだ。俺に抵抗しても、お仕置きだがな」
また、キスされる。
「大丈夫だ、もうリューナは二度とそんなことは出来ない。俺が毎日ここへきて、お前の世話をするんだからな。…朝から、晩まで」
裏を返せば、四六時中遊星と一緒にすごさなければならないということ。だが、優しい声色は、次第にリューナを支配していった。
「ちなみに、この部屋の両隣と上下には誰も住んでいない。助けを求めても無駄だ」
「遊星…」
「ポッポタイムの皆には上手く言っておく。安心してくれ」
「なんで、こんなことを」
「リューナが好きだからだ。好きで好きでたまらない。愛している。こんな気持ちになったのはお前が初めてなんだぞ」
抱きしめられる腕の力は強く、リューナは息が詰まった。遊星の背をポンポンと叩き、苦しいことを暗に伝えると、彼は少し手を緩めた。
「苦しい、わ」
「こうでもしないと、お前は逃げてしまうだろう?そんなこと、絶対に許さない。お前は、俺のものなんだから」
遊星はやると言ったらやる人だ。真剣味を帯びた声からは、決意の固さが読み取れる。もう逃げられないことを悟ると、リューナは彼の背に手を回した。遊星は嬉しそうな表情をすると、彼女に長いキスを送る。
「大事にするからな、安心してずっとここに、俺の傍にいればいい」
これからは死ぬまで、いや死んでも一緒だと告げる遊星は、これ以上なく幸せそうだった。
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プラシドさんをパートナーにする→その状態で遊星さんとデュエルして勝つ→翌朝自室にはシューティング・スター・ドラゴンのカードが落ちていた!ってことがあったのでネタにしてみた。
あの時は「次はお前を真っ二つだ」っていう宣戦布告かと思った…
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