頂き物 | ナノ


   何だ、ただのバカップルか。


「リューナ、手紙が届いてるぜー?」



疲れきったクロウの声が玄関に響く。きっと仕事帰りなんだろう、ものすごく眠たそうだ。
私は返事をして玄関に向かった。重たそうな瞼をこする彼は家に上がると、速攻自分の部屋へと足を運んでいく。
今日もお疲れ様、と思いながら封を切り、私はリビングに戻りながら手紙の内容に目をやった。
目を通せばどうやら同窓会の案内状のよう。中には私がまだ学生だった頃に撮影したクラス全員の集合写真も入っていた。



「懐かしいなあ、アークティック校の皆に会いたいなあ…」



あの頃の私はサイコデュエリストに目覚めたばっかりで、自分でもどうしたらいいか解らなかったなあ…
でも、カードの精霊が見える男の子とかも居たから全然周りから不信がられることもなかったっけ。
アルカディアムーブメントの人が急に選抜に来た時は、流石に吃驚したよね。
そっか。それ以来アークティック校には私全然行ってないんだ。そうすると…えーと、何年ぶりに会うことになるんだろう?
日付は丁度運よく、有休をとった日曜日。ああどうしよう!皆きっと変わってないんだろうなあ、会いたい、なあ。



「リューナ。」



私はとある男性の呼びかけではっ、と我に返った。
背後にただならぬオーラを感じる。刺さる視線が妙に痛いような…
壊れかけのロボットのようにゆっくりと振り向くと、そこには予想通りサテライトの流れ星こと不動遊星の姿が。
条件反射ではないが、私は手紙を背中へと急いで隠せば、当然彼は疑いの眼差しを向ける。



「随分と機嫌がいいんだな。」



「あ、ああ遊星?起きてたの?もうてっきり寝ちゃったと思ってたわ、徹夜もう3日もしたんでしょう?ほら疲れてるんだから寝ないと、うん!」



「で、その今隠したのはなんだ?」



「あ、はい…」



おずおずと私は手紙を差し出した。別に悪いことをしている訳ではなくても、遊星にこの手紙を見せるのは気が引けたのだ。
何を隠そう、遊星は他人に自慢できるほど独占欲が強い。アキと遊びに行く時の送り迎えは当然、ブルーノと2人で買い物だってしぶしぶ許すぐらいだ。
だから今回の同窓会のことも、きっと許してくれないと思うんだよね…
遊星の目が手紙の内容を隅から隅まで確認するように動く。その間、私は肩身が狭かったんだけど。
ふう、と1度溜息をついて手紙を閉じた彼は私から目を逸らさなかった。


「…行くのか?」



「うっ…それは行きたいけど…遊星、怒らないの?」



「そうか。なら、行けばいいじゃないか。」



私は意表を突かれ、素っ頓狂な声を上げてしまう。普段の遊星なら嫉妬の炎をめらめらとさせるのに。
いつもジャックやクロウと話す時のような返答だなんて珍しいなあ…
待って、もしかして遊星ものすごく怒ってる?だからわざとこんな態度とるの?それだったらどうしよう。
悶々としていると彼は瞬きをしてどうしたんだ、と訊ねる。なんでもないと答えればそうか、と。
そして踵を返す遊星を私は急いで右手を掴み引き留めた。謝らないと!



「遊星…あの、その…私やっぱり行かないよ、遊星怒ってるみたいだし…ごめん。」



「何故だ?俺は怒ってないんだが…?」



「え?」



「特別な日なんだろう?昔の友達に会える、いい機会じゃないか。」



遊星の微笑みに私は心のもやもやが晴れていく。本当に、本当に行っていいんだね?
私は彼の手を握りしめて頭を下げ、自分で言うのもなんだけど満点の笑顔で返した。



「遊星、ありがとう!じゃあ今度の日曜日は行ってくるね!!」



「…ああ、楽しんで来いよ。」









































































それからあっという間に日にちが経ち、明日は同窓会。私の頭の中は朝からどんな話しようかな、とか決闘とかやりたいな、とか。
そういえばプロを目指してたあの子はどうなったのかな。精霊たちと仲良くしてるのかなあ…
D-ホイールの調整で忙しい遊星たちに、夜食は何がいいか聞こうと鼻歌交じりで廊下を歩く。
するとクロウの部屋の前で私の足は止まった。作業中のはずの遊星の声が聞こえたのだ。



「久しぶりにリューナの仕事が休みだったから、楽しみにしていたんだが…」



「じゃあなんでそれをオレに言うんだよ、リューナに言えば良いじゃねえか?俺の約束の方が先だって。」



「それは…あんなに嬉しそうなリューナの笑顔を見た後だと、どうしても言い出せなくて…」



「おーい遊星、ダニエルになってるぜ。」



ちょっと待って。遊星との約束?明日は同窓会の日で、私の仕事が都合よく休みで…!?
ここで私のシナプスは全部繋がって、とてつもない罪悪感に襲われた。
何で私が明日休みなのか。それは遊星と付き合い始めた記念日で、どこか2人っきりで出かけようって決めたから――…
私のおばか。何でこんな大事な日を浮かれて忘れるのよ。私の考えなしのせいで彼氏が困っているじゃないか。
ぎゅ、と後悔の溢れる手を握りしめて思いっきりドアを開く。もちろん視線は2つとも私に向けられる。



「リューナ…聞いていたのか?」



遊星が大きな青い瞳を丸めながら問いかける。こくりと私は申し訳なさいっぱいで頭を下げた。
部屋に勢いよく入ったはいいが、遊星の顔をまともに見れない。
彼は怒るだろうか。俺の気持ちに何故気づかなかった、約束の日を何故忘れた、と。
沈黙の空気に耐えられず、クロウに助けの視線をやるが引きつった苦笑を見せてそっぽを向いた。そりゃそうなるよね、今3人ともこの気まずい空気をどうすればいいか解んないんだから。
私が悪いんだ、謝ろう。決心して震える唇を開く。



「あの、遊星…」



「すまない!さっきのは俺の我儘だから、聞かなかったことにしてくれ…だから明日は、明日は同窓会なんだろう?俺とはこうやって毎日会えるから、約束もまた次でいいから…」



こんなに息をつく暇もなく言葉を並べる遊星を初めて見た。
視線はお互い床に向けられたままだったけれど、言葉は真っ直ぐ私を向いている。
きっと遊星は何時もみたいに自分を責めているのだろう。確かに独占欲が強くって、変なところで頑固だけれど…
違うんだよ、遊星。最初からクロウじゃなくて、私に言ってよかったんだよ。



「遊星、あのね。相談があるの。」



「リューナ…」



「明日の日曜日、どこ行こうか?」



瞬間、遊星は顔を上げた。さっきとはまた違う驚いた表情を見せたかと思えば、数回の瞬き。
どこがいいかな、ともう1度訊ねれば突然がばっと覆いかぶさるように遊星の腕が私を捉える。



「ちょっと、遊星!?どうしたの!?」



「本当に、いいのか?」



「…いいの!明日は記念日だもんね!私こそ、気づけなくて…ごめんなさい。」



「いいんだ。ありがとう…リューナ。好きだ、大好きだ。」



「私も、好きよ。遊星。」



ぎゅう、互いの身体に手を回し力いっぱいに抱きしめる。明日は絶対、絶対楽しもう。
アークティック校の皆…ごめんね、また今度お誘いしてね?次はきっと案内状の出席に丸をつけるから。
そして、すっかり忘れてたけどクロウがぽつりと言葉を漏らした。



「あー…リア充爆発しねーかなあー…」





































あとがき。
キリ番34300HITより、『遊星で日常ほのぼの甘』でした。
オチはクロウにお願いしましたけど…ご期待の甘さを提供できたのでしょうか…(遠い目)
お持ち帰りは冰覇様のみとなっております。ご了承下さい。
冰覇様、リクエストありがとうございました!



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Chain Mirror(http://chainmirror.web.fc2.com/index.html)の管理人、緋ノ風ぴあす様から、キリリク小説(34300hit)を頂いてしまいました!
「遊星で日常ほのぼの甘」というリクエストをしたらこんな素敵なシチュエーションに仕上げて頂きました。
夢主は年上リューナ(5D's夢主のデフォルト名)のイメージで書いて頂いてしまいました!すごい幸せ者ですね私!
小説の内容も、自分より夢主ちゃんの気持ち優先しちゃう遊星さんとかイケメンですよね!独占欲強いのに!素敵!
しかも本人に言わずクロウさんに言っちゃう…!クロウさん不憫!でもそれが彼らしい(酷い)
この後はきっと二人ラブラブな日曜を過ごすことでしょう!むふふ!
緋ノ風ぴあす様、ありがとうございました!大事にします!

ご好意で掲載させていただいております。
持ち帰り・無断転載・ダウンロードなどは厳禁とさせていただきます。




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