ジャックは背が高い。
以前本人に何センチか聞いたら「はっきりとした数値は知らんが190はあるんじゃないか」と言われた。
確かに並んで歩いても、彼の胸元あたりに頭がきて、とても目なんか合わせられない。
せめて遊星くらいあったら、と考えるリューナの目は虚ろで。
呼びかけるジャックの言葉にも、すぐ反応出来なかった。


「おい、リューナ、リューナ!」
「えっ」
がば、と机から身を起こす。
目の前にはバイトから帰って来たジャックが仁王立ちで見下ろしていた。
「あ…ごめんなさい、おかえり」
「ふん、考えごとか?」
特に責めるでもなく、ジャックは隣の席に座る。
こうしていると目は合うのにな、と彼の顔を見つめた。
ジャックの紫の瞳も彼女を吸いこまんばかりに捕えて離さない。
「考えごと…なのかしらね」
「何だ、はっきりしないな」
どうした、と様子を窺うジャックの手がリューナに伸びる。
頬に添えられ逃げられなくするが、顔色が悪くないことを確認するとやがて離れて行った。
「オレではどうにもできないことか」
「…」
「…遊星でも、クロウでもブルーノでも?」
「…多分、誰にもどうにも出来ないわ」
「…」
苛立ったらしいジャックの眉が顰められる。
幸か不幸かリューナは目を逸らしていて気付かなかった。
それは、自分に向かって伸びる彼の手にも。
「っ!」
ぐい、と抱き寄せられてジャックの胸に顔が埋まる。
聞こえる鼓動にも安心していると頭上から声が降る。
「だが、言うことくらいは出来るだろう」
「ジャック…」
「言って楽になるのなら言うのも一つの手だぞ」
もちろん言いたくないのならオレはもう何も聞かんとジャックは続ける。
そこまで大ごとにするつもりはないリューナは慌てて首を振るがどうやら彼には強がりと認識されたらしい。
「別に無理矢理言わんでもいい」
「違うの、別にくだらないことだから大丈夫よ」
「なら言っても構わんだろう」
見上げた彼の顔は「さあ言え」と訴えている。
真剣な表情に圧されたリューナは、少し考えた後口を開いた。
「…ジャック・アトラス」
「何だ」
「縮みなさい」
「は?」
悩みを聞くつもりが命令されて彼の思考が混乱する。
命令の内容も内容で、リューナの意図はさっぱり分からない。
この自分に命令したという事実よりも、「縮め」という言葉の意味不明さに今度はジャックが悩まされる。
「どうしたの、言えと言ったのは貴方よ」
しばらく経っても何も行動しようとしないジャックにリューナは痺れを切らしたらしい。
それはそうだが、とペースを崩されうろたえる彼を立たせて屈ませる。
うん、と満足げに頷くが、ジャックは納得いかなかった。
「これでいいわ」
「…よくない!」
「あっ」
言うなり姿勢を正して踏ん反りかえるジャックをもう一度屈ませようとしても彼は力を入れているため敵わない。
なんとか届いた肩に手を添えて下に下げるも、ジャックはびくともしなかった。
それどころか、抱きつくような格好をしていることをいいことに彼に抱きすくめられてしまう。
「むっ、ぐ…」
「で?何がしたいんだお前は」
「別にいいでしょう…!」
「よくない」
すい、とジャックの腕が上がるのと同時にリューナの身体も宙に浮く。
降ろして、と彼女が抵抗するものの、全くの無駄に終わった。
「聞かせてもらおうか、リューナの狙いを」
どさ、とソファに寝かされた後ジャックが覆いかぶさる。
頬にかかった髪をどかしてやって慈しむ彼の顔はとことんまで優しかった。
「…貴方は背が高すぎるの」
「…ほう?」
「見上げる時首は痛くなるし、目も高さ的に合わないし…」
確かに誰にもどうにも出来ない内容だが、まさかそんなことを考えているとは思っていなかった。
不平不満を漏らすリューナから紡がれる内容はどれもジャックの心をくすぐるもので。
「せめて私が遊星くらいあれば…」
「そんなに必要ないだろう」
「なっ、私は真剣に…!」
考えてるの、と続けようとしたが、言葉は全てジャックの胸に吸い込まれてしまう。
ソファの上で胸の中に閉じ込められたリューナが暴れないようにと手も足もその体躯で封じ込めると、気が済むまで頭を撫でてやる。
「あいつくらい高くなるのもいいが、オレは今のリューナが気に入っている」
「ジャック…」
「立ったままでもオレの胸にお前の顔を埋めてやれるだろう?」
かあああ、とリューナの顔が赤くなる。
幸いにしてジャックからは見えないが、体温が上がったことは隠せない。
敢えて知らないふりをして、ジャックは続ける。
「お前はここが好きだものなあ?」
意地悪に笑う彼だが、彼自身も彼女を胸に抱くのを気に入っている。
「それに、大きい方がリューナをしっかり守ってやれる」
遠慮なく体重をかけて堪能させてやると、やがてリューナの、なんとか抜け出した腕が背に回った。

「ん…ジャック…」
「何だ?」
「……貴方は、縮まなくていいわ」
「ああ、そうさせてもらう」
すり、と顔を擦りつけてジャックに甘える。
温かくて、すべすべした肌触りと時々当たる突起。
その全てが愛しくて、目を閉じて享受する。
ジャックも、そんなリューナを愛しく思って、させたいようにさせることにした。



「はあ…」
「満足したか」
「ええ…」
数十分後、解放されたリューナはソファの上で呆ける。
服を正したジャックが彼女の手を引いて起こしてやると、再びリューナの顔に不満が宿った。
「でも、貴方と目を合わせられないのは解消されてないわ」
「…まだ言うか…」
どうしたい、と腕を組むジャックの態度は不遜だがリューナは気にしない。
ツカツカと歩み寄って背を伸ばすが到底届かない。
「…」
「大体オレと目を合わせてどうするんだ」
「…こういうことが出来ないでしょう」
ぐい、とサイドの髪を引っ張って無理矢理ジャックを屈ませる。
近付くジャックの顔に、背伸びをしたままのリューナが顔を近付けるが、生憎狙った箇所には届かなかった。
「…」
「ほう」
リューナとしては恥ずかしい表情を見られただけで終わってしまったため、急速に顔が赤くなる。
ここまで身長差があるとは思っていなかった彼女は髪から手を離してそっぽを向こうとするが、ジャックは許さなかった。
自分から屈んで彼女の思惑通りになるように口付ける。
ちゅう、と唇を吸うと、これでいいのかと口角を上げた。
「…!!!」
「なんだ、足りんのか?」
「ち、が…!私は、自分から…!!」
主導権を握ろうとしているらしいが、ジャックにしてみればただ煽っているだけにしか見えない。
可愛すぎてどうしようもないなと内心愚痴をこぼしながら、ジャックはリューナを抱き締める。
「言えばいくらでもしてやるぞ?」
「…あまり直接言いたくないのだけど…!」
「そうか、ならまた態度で示すがいい」
「…態度で…?」
「そうだ、覚えておけ、男を煽るのは言葉だけではないのだと」
「だから、私は煽るつもりなんてないわ…!」
とは言うが、きっとジャックは煽っていると思ったままなのだろう。
ぐぬぬ、と、言い返したものの気が済まないリューナが睨みつけていると、彼は涼しい顔で言葉を紡ぐ。
「ああ、手始めに今晩覚悟してもらおうか?」
「えっ」
「あんなに可愛いことをされて手を出さない奴はいない。そのことをじっくりと教えてやろう」
ニヤニヤと悪い笑みを浮かべる今のジャックに対抗する手段などない。
身の危険を感じながら、リューナはデュエルで対抗するべくデッキの見直しをすることを決意した。



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思ったより長くなったけどそれでも短い…
今回エロシーンを入れる気力がありませんでした…ごめんなさい…!
この二人は恐らくきっとこの後めちゃくちゃセックスした感じにはなると思うので、また裏で書けたらなあと思います。
続きでも続きでなくても。

ジャッぱいは正義!(合言葉/←?)


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