亜久津と千石 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



「なんであの人テニス部にいるんですか。」


 がしゃん、と音を立ててボールの入ったカゴを倉庫の棚に戻す室町くんの日焼けした顔は、むっすりと膨れている。


「…亜久津なんかした?」

「別に。ただ、滅多に来ないくせにたまに来ては伴爺に練習つけて貰ってるし、壇ははりつくし。その分僕達いつものように練習できないじゃないですか。」

「あー…それはねぇ…」


 亜久津は強いから、で割りきらすことが出来るほどこの部は実力主義ではない。
 そりゃあ強い者は優先的にレギュラーに選ばれるが、強いからと練習に出ないものを優先させることなど今まで無かった。
 伴爺にそれをさせるほど亜久津に実力があると言うことは、室町くんもわかっている。伊達に二年レギュラーではない。亜久津の勝利によって確実に勝利をつかむことが、結果的に自分のためになると言うことも。ただ、それでもどこか不公平感を感じてしまっているだけだろう。


「でも…、あいつ意外といいやつだよ。」

「そうですか。」


 興味無さそうに次のカゴを持つ室町くんを追いかけて、ほんとうだってば!と迫る。自分でもちょっと引くくらい真剣なんだけど、ほら、室町くんが部活楽しめなかったらかわいそうじゃん?とずるい言い訳をしてみた。本当は違うことなんて自覚してる。


「そもそも壇くんみたいなイイコが懐いてるんだからいい奴なんだって!」

「あれくらいの年頃って悪いことに憧れるらしいですね。」

「あー…らしいねー…」


 あはは、と笑って室町くんの後ろに続く。さすがにこれで納得はしてくれないか。こんなので頷くなんて、それこそ壇くんくらいだ。南だって騙されてくれないだろう。
 かといって、他に亜久津のいいところなんて言えない。
 いや、思いつくには思いつくのだ。うっとりするくらい完成された身体にまずひどく惹かれたし、今となってはなんだかんだ言いながら絆されてくれる優しいところもいいなぁと思う。ただ、それを室町くんに言ったところでそれはノロケのようなもので、室町くんには理解不能だろう。というか、ただ俺が恥ずかしい思いをするだけだ。


「千石さん?」

「あー、えっとねぇ、」


 急に黙り込んだから、言い過ぎたとでも思ったのだろうか。名前を呼ばれて、なにも考えずに顔を上げて、ふと腕の中の重さが消えたことに気づいた。


「…あくつ?」

「ちんたらやってんじゃねえよ。待ってろっつったの手前だろうが。殺すぞ。」

「ああー、メンゴメンゴ。あっくん運んでくれるなんてラッキー!」


 既に見慣れた制服姿の亜久津は、チッ、とお決まりのように舌を打って、室町くんのカゴも一緒に奪ってずかずかと倉庫に向かった。
 決して軽くはないそれを易々とふたつ持つその筋力に軽く口笛を吹いて、室町くん、と呼ぶ。


「ね、いい奴でしょ?」


 多分俺は今、やたらといい笑顔だ。




アイツアピール




河童さんへ