14 | ナノ
これだけはさせたくなかった、と思う。
原因をつくったのは自分だとしても、それでも。
泣かせるなんてことだけは、したくなかった。
「にお、せんぱい」
「うん」
「おれ、は、女じゃないっす」
「うん、知っとるよ」
言われるまでもなく、いちばん。
何回もふたりでクラブ行って、シャワー浴びたまんま騒いで風邪引きかけたり。
俺が赤也の家に泊まったことも、赤也が俺の家に泊まりにきたこともある。
だから、ちゃんと知ってる。
この子が本来は、男である俺の恋愛対象にはなり得ない存在であることも、俺を大好きな『先輩』としか見ていないことも。
それでも、やった。
自分がこんなに衝動のままに動く性格だとは思わなかった。もしかしたら、こいつに引きずられたのだろうか。自分のプレイスタイルからしたらいいことなんてないのに、なぜだか嬉しい。
「におうせんぱい、は、ホモなんすか?」
「ちがうよ」
「じゃあなんで…!」
「赤也がかわいかったから、かのう?」
「っだから…」
かわいい、という言葉が逆鱗に触れたらしい。一応正直な理由なのだが、女扱いされているととられても仕方ないかもしれない。じんわりと目が充血してきている。
「おれ、は!」
「知っとるよ」
するり、自分とは違う黒い髪を手でなぞって、視線を合わせる。
「女はこんな泣き方、せんからのう」
ぐちゃぐちゃに顔を歪めて、涙も鼻水も全部出てる。こんな泣き方、自分の弟だって滅多にしない。
「きったないのう」
「…知ってます」
ゆるゆると抱き締めて、ぽんぽん、となだめるように背中をたたき、大丈夫、とささやく。
「ちゃんとお前の先輩じゃから。からかうとすぐに怒って、甘えたがりのくせに強がりで無茶しいの、かわいいかわいい後輩だから。」
だから、大丈夫。
そう囁くと、うえ、と声をもらして、子どものように泣きじゃくった。