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 これだけはさせたくなかった、と思う。
 原因をつくったのは自分だとしても、それでも。
 泣かせるなんてことだけは、したくなかった。


「にお、せんぱい」

「うん」

「おれ、は、女じゃないっす」

「うん、知っとるよ」


 言われるまでもなく、いちばん。
 何回もふたりでクラブ行って、シャワー浴びたまんま騒いで風邪引きかけたり。
 俺が赤也の家に泊まったことも、赤也が俺の家に泊まりにきたこともある。
 だから、ちゃんと知ってる。
 この子が本来は、男である俺の恋愛対象にはなり得ない存在であることも、俺を大好きな『先輩』としか見ていないことも。
 それでも、やった。
 自分がこんなに衝動のままに動く性格だとは思わなかった。もしかしたら、こいつに引きずられたのだろうか。自分のプレイスタイルからしたらいいことなんてないのに、なぜだか嬉しい。


「におうせんぱい、は、ホモなんすか?」

「ちがうよ」

「じゃあなんで…!」

「赤也がかわいかったから、かのう?」

「っだから…」


 かわいい、という言葉が逆鱗に触れたらしい。一応正直な理由なのだが、女扱いされているととられても仕方ないかもしれない。じんわりと目が充血してきている。


「おれ、は!」

「知っとるよ」


 するり、自分とは違う黒い髪を手でなぞって、視線を合わせる。


「女はこんな泣き方、せんからのう」


 ぐちゃぐちゃに顔を歪めて、涙も鼻水も全部出てる。こんな泣き方、自分の弟だって滅多にしない。


「きったないのう」

「…知ってます」


 ゆるゆると抱き締めて、ぽんぽん、となだめるように背中をたたき、大丈夫、とささやく。


「ちゃんとお前の先輩じゃから。からかうとすぐに怒って、甘えたがりのくせに強がりで無茶しいの、かわいいかわいい後輩だから。」


 だから、大丈夫。
 そう囁くと、うえ、と声をもらして、子どものように泣きじゃくった。