17 | ナノ
「いっ…!」
思いっきり脱脂綿を押し付ければ、反射のような声を出した後はかろうじて唇をかみ締める。だがそれも周りの細かい傷まで消毒していくころには持たなくなったようだった。
「…っもう無理ムリムリ!もういいっす仁王先輩カンベンしてください!!」
「もうちょっとじゃ、我慢しんしゃい。男じゃろ。」
「男でも無理ッス!っていたぁ!!」
動こうとする足を押さえつけて消毒をする。いくつかあるボールの入ったかごの中の、ことさらでかい奴を運ぼうとして結局転ぶなんて。予想通り過ぎて涙が出る。だから手伝うといったのに。
「しっかし…、傷だらけじゃのう…。」
今治療している怪我だけではない。治りかけの擦り傷やあざが赤也のまだ細い体のそこらじゅうにある。子どもは怪我をして何ぼだのと祖父辺りにいわれたことはあるが、さすがにこれは怒られるんじゃなかろうか。
「あかやぁ」
「はい?」
「これ、母親とかに怒られんの?」
「なんでっすか?」
「こんなに傷つくるなー、とか」
「やー、べつに…。いつのまにこんな傷つくったの!って怒られたことはありますけど」
ほら、これとか。
そう言って指差したのは、半袖を捲った二の腕のあたりにある割と大きめのかさぶただ。まったくどんな無茶な練習をしているのだか。
というか、親が傷のことを知らないというのはつまり、
「赤也、自分で手当てしとるん?」
「へ?手当て?」
なにそれ、おいしいの?とでも言い出しそうな調子に、思わず視線が剣呑になる。それに流石にまずいと思ったのか、ふいと目を逸らした。わかりやすいそれは、赤也の悪い癖だ。もちろん悪いというのは赤也にとってであり、俺にとっては非常にありがたい癖となっている。
「赤也…?」
「え、や、唾つけとけば治るかなーって…」
段々と鋭くなっているであろう眼光のせいで語尾が消えていく。いやしかし、ここでしっかり言い聞かせなければ。
「赤也、次からケガしたら連絡しんしゃい」
「え、でも、」
「膿んだりしたらどうするつもりじゃ。もっと痛くなるぞ」
「う…」
「返事は?」
にやり、一番怖いと自負している表情で脱脂綿をかざせば、はい!と勢いのいい返事が返ってきた。