05 | ナノ
「日吉!」
落ち着いた和柄のブックカバーに包まれた本を持ったクラスメートを呼び止めれば、振り向いた彼はこちらに来てはくれない代わりにそのまま待っていてくれた。
「その本もう読んだんだ?」
「ああ、お前は…今日も図書当番か」
「そう」
そのまま並んで歩きだす方向はもちろん図書室だ。どうやら日吉は今続き物を読んでいるらしい。成る程、それでいつもより借りるペースが早いのか。
心持ち早足で廊下を歩いていると、学年で一番大柄な日吉のチームメイトが近寄ってきた。
「どうかしたのか、樺地」
「ウス…」
樺地くんは日吉の顔と本を何度も見て、あからさまに何かを迷っているようだった。それに首を傾げるとほぼ同時、日吉が顔をしかめて口を開いた。
「……芥川さんか」
「…ウス」
「ったく、あの人は…」
嫌そうに吐き捨てて髪をかきあげる。芥川さんって、もしやテニス部の芥川先輩だろうか。あの噂の眠り羊の。あの先輩と日吉が親しいなんて、なんか意外だ。性格的に、とても合いそうにない。
いや、親しくはないのか?日吉なんかすごく嫌そうな顔してんだけど。つかなんで樺地くん日吉のところ来たんだろう。日吉すごく怒りそうなのに。
「わかった。樺地、お前は跡部さんのところに戻っていい」
「ウス」
そう言った日吉は、次にこちらを向いて、悪いんだが、と言いながらブックカバーが掛けられたままの本を差し出してきた。
「この本、返却しておいてくれないか。ブックカバーは後で取りに行く」
「いや、いいけど…。続きは?」
「明日借りる。急用ができた」
まったく、ふざけてる。
そう呟きながら、迷いなくさっきと逆方向に歩きだす日吉を見送って、クスリと笑う。
なんだ、結局日吉と芥川先輩って、仲良いんじゃないか。
最優先事項
(この間向日先輩にちょっかいかけられたときはあんなに怒ってたのに)(日吉って案外わかりやすいな)
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