なにいろの花束 | ナノ
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天上界には友人がいてね

 理由は思い出せない。ただ、冷静になって考えてみれば、すごくくだらないことが原因だったのだと思う。その、冷静になって考えてみればすごくくだらないことが原因で言い争いになって、煽って煽られて、その結果、サンソンの天敵たるヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが裸で横に眠っている。

―――本当に、意味がわからない。

 *

 しゅるり、ゆっくりとした、けれどするどい音で目が覚めた。ぼんやりと目を開けば、このカルデア内であればどこも均一な金属製の天井。横を向けばおそらく音源はあるけれど、一瞬で思い出した記憶が必死でそれにストップをかける。
 だけど、耳のよさはきっと、彼はだれにもゆずらない。
「――おや?起きたのかい?」
 呼吸音の変化か、もしくはかすかな衣ずれか。いずれかで気付いたのだろう、ひょうきんでかろやかな声は、そうしてサンソンに声を掛けた。ここで寝たふりを続けることは不可能だ。なぜなら、声の持ち主は問いかけの形をとりながらも、その実確信を得ているから。ここで悪あがきなどしたところで、笑われるだけだろう。
「……ああ。起きているよ」
「気分はどうだい?」
「最悪の目覚めだ」
「それは重畳」
 鼻歌でも歌いそうな声で返されて、ため息をつきながら起き上がる。皮肉を言うだけ無駄なのは知っているのだが、それでもなにか言わずにはおれない自分が悪いのだろうか。朝からものすごい脱力感に襲われながら横を見れば、彼――アマデウスが、うつぶせで寝ころんでいた。傷一つない、すらりとした白い背中がまず視界に入る。どうやら本を読んでいたらしい、手元には大きめの本があった。ここはサンソンの部屋だから、それもサンソンの本だろう。こう見えてこの男は割となんでも読むから不思議ではなかった。眠りを妨げたのはこの音だったのだろうか。視線を感じたのか、頬杖をついたまま首だけで振り返った顔には、小さな眼鏡がかかっていた。
「……まず、服を着たらどうだい」
「そんなことしたら絶対に起きるだろう。紙をめくる音だけで起きるような男が何を言ってるのやら」
 下がり気味の眼鏡のブリッジを上げて、にやにやと笑いながらそう言ったアマデウスの言葉につまる。眠りが浅いのは生前からのことだが、それをあっさりと見破られているのは悔しかった。
 やむなく見下ろした身体は、背中だけはやたらとうつくしい。そこは褒めても良かった。傷一つない白い膚にきれいに浮き出た肩甲骨は、ただしくここに羽根があったのだと思わせる。ただしそれ以外は最悪だった。
「……なぜ僕は、昨晩おまえを抱いたんだ?」
「それを僕に言うのかい?」
 おかしそうに眼鏡の奥を細めた青年は、首を上げているのがつらくなったのかくるりと仰向けに寝がえりを打つ。浅くしかかかっていなかった掛布が大胆にめくれて、ため息をつきながらすかさずもどしてやった。
「昨日散々見ただろう」
「これ以上思い出させるな」
 青筋を立てそうになりながら忌々しく肩口までを掛布で覆えば、それを裏切るようにひらりと上体を起こす。眼鏡を外すしぐさに合わせて動く、鬱陶しくくるくると巻かる髪は今はすこししなびている。服を着せる前に風呂に入るように促すべきだ。
 ぐい、とおもむろに顔を近づけてくる相手に、思わず息をのむ。ぐりぐりと虹彩の大きい眸は、一体なにを見透かそうというのだろう。呼吸が触れる距離に眉をひそめてのけぞれば、ふふ、と湿った呼吸が頬にあたった。
「――確かめてみたいのなら、どうぞ?」
 薄いくちびるが、そこから吐き出されるよく通る声が、耳元で囁くための低い声を出す。それを聞き終わるか聞き終わらないかのうちに、それを声ごと奪った。彼の思惑通りに動いてやったせいだろう、女のあえやかさとは違う吐息が聞こえたが知るものか。遠ざかろうと後ろについていた手を回せば、処刑人であり医者であり、そしてただびとである自分の手が、羽根の名残に触れた。

 ―――ぜんぶ、この背中が悪い。

 ガリッ

「いたっ」




煽るだけ煽って責任は取らないアマデウスと責任を取らされちゃうサンソン先生が書きたかった。アマデウスは最中は絶対マグロだけど背中は綺麗そうだなって思います。