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あなたが優しさと


「いいよ。慰めてあげる。」


 ハチの言う「慰める」は、身体を使う「慰める」だ。始めたのは誰だったかのかなんてもうわからない。ただ、中学からつるんでいる俺らの中の紅一点は、「慰める」ことに対してためらいがない。
 雷蔵とけんかした三郎。中在家先輩に叱られた雷蔵。彼女に振られた勘右衛門。
 普通の人なら、落ち込みはするけどもそのうち自分ひとりで持ち直すことができるような、そんななんでもないことであいつらはハチを求める。そして、彼女はあの科白で答えるのだ。


 
呼んだそれは、



「ハチは、おかしいことはわかっているのか?」

「わかってるよ。」


 今日は勘右衛門だったらしい。服を乱されただけで、生臭い部屋で寝転んでいるハチに問う。
 勘右衛門は、着衣プレイが好きだ。そんなことがわかるほど、何度もこの光景を見てきた。うんざりする。


「わかっているならさ、何で続けるの?」

「…自己満足、じゃない。」


 ごろりとうつぶせに寝返りを打って、答える。ぱたぱたと足を揺らすたびに、引っかかっているだけのプリーツスカートがふわふわと揺らめいた。


「あいつらは私のことを優しいって言うけどさ、別に私は優しいわけじゃないと思うんだ。」

「そう。」

「うん。」


 それはそうだろう。本当に優しいのなら、あいつらの逃避を許すように身体を許したりなんかしない。ましてや、俺が一緒に住んでいるのに、他のやつらと関係を持ち続けるなんてこと。


「ハチ、風呂入っといで。上がったら髪乾かしたげる。」

「ん、起きてる。」


 腕に力を入れて、そのまま猫のように伸びをすると、勢いを付けて立ち上がる。邪魔になったらしいスカートをそのまま脱ぎ捨てたハチに向かって、苛立ち交じりにバスタオルを投げつけた。


 
私にはどうしても



「たぶんさ、私は優しくするのが好きなんだと思う。」


 タオルで乱雑に髪を拭かれるせいで頭をぐらぐらと揺らしながら、ハチはそう口火を切った。


「どうした?」

「お風呂で考えてたの。何で私は、こんなことするのかな、って。」

「うん。」


 だいたいの水気を飛ばして、毛先からブラシを入れる。ハチの銀灰色の髪は絡まりやすくて、最初から櫛を通そうとしても通りはしないのだ。


「これが優しさだと思ってたんだ。泣いていたから抱きしめて、人肌が恋しいというから脱いだ。寂しさを忘れたいというからセックスした。それで忘れられるなら、と思ったんだ。」

「そっか。」


 違ったことはもう、知っているのだろう。それでももう、その優しさを貫き通すしかない。もう彼女の「優しさ」なしに、彼らは生きていくことなどできないのだろう。
 さながら怪物のようだった。もう、彼女に縋らなければ生きていけず、そして、縋れば縋るほど泥沼にはまっていく。


 ねえ、ハチ。君が優しさだと思っていたそれは、自己満足でもなんでもない。それは、紛れもなく怪物だ。



 
怪物に見えた





糖衣錠はもういらないさまに提出
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