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プラン・トラップ




ガシャンと嫌な音を立てて落ちたプラモデルは、床から恨めしそうに日吉を見ていた。慌てて拾い上げると腕骨の部品が見事に取れていてうろたえる。
ただ本を物色していただけだ。背表紙をなぞり、これを借りようかなと取り出したら本棚の上に飾られていたこいつが飛び降り自害した。

日吉は知らなかったが、2本足で直立するタイプのプラモデルは大概倒れやすい。貧乏揺すりでも身投げしてくるような奴らの土台に触れるならば、細心の注意を払わなければならなかったのだ。
見た目には部品が折れているのか外れただけなのかわからず、それが益々心細い。

飲みものと茶菓子を持って帰ってきた仁王を途方にくれた顔で見上げる。


「あ」
「すみません…落としてしまって」
「んー…ええよ、作るのが好きなだけじゃし」


一瞬目を見開き驚きを見せた仁王だったが、すぐにへらりとした笑みに変わった。
盆をテーブルに置き日吉から部品と本体を受け取るとあれこれいじり始める。それを固唾を飲んで見守っていた日吉だが、彼が諦めたようにふたつを本棚に戻したのを見てザッと青ざめた。


「直らないんですか」


強張った声で尋ねた日吉にそうだともそうじゃないとも言わず仁王は笑った。
その曖昧な態度で修復は不可なのだと悟る。


「べ、弁償します!」


大変なことをしてしまった。いくらですか多めに包みますととにかく慌てる日吉を、大したものじゃないからと仁王が笑いながら制すも日吉は譲らない。
それでも壊したのは俺ですから、いやいやこんなとこに置いといた俺が悪いんじゃ。
平行線な話し合いに決着が見えず、それならこうしようかと仁王から提案されたものは日吉にはいまいち理解できかねるものだった。


「じゃ、日吉からちゅーしてくれたら許そうかの」
「は?」


話が一気に飛んだ。
なんでそれが妥協案みたいな風になっているのかわからず仁王を見る。


「日吉は何か俺に償いたい。俺は金銭をもらっても困る。なら、日吉から何かしてもらうしかないじゃろ」
「それで、その、キス…ですか?」
「うん?どうしても嫌なら他のでもいいぜよ」


“どうしても”をうんと強調して言われ口ごもる。そもそも選択権など日吉にはない。
ニコニコだかニヤニヤだかわからないような表情の仁王を穴が開くほど見つめながら、ひとまずこれを聞かねばなるまいと口を開く。


「…どこにしたらいいですか」
「どこでもええよ。お任せじゃ」


その返答がいちばん困るのだと、わかっているくせに!
どこがベストかなんて、いくら日吉でも見当はつく。ただ、そこに口づけるには勇気だとか度胸だとか思い切りだとか、そういうものが足りなかった。
でも、仁王は待っている。日吉がどこにするか悩んでいることもお見通しで、なおかつどうするか楽しんでいる。

ああもうどうにでもなれと、日吉はぎゅっと目をつぶって唇を押し付けた。
恥ずかしさから早くに目を閉じたのが災いして、狙いはややずれて唇の端。


「残念、はずれじゃ」


笑い声と共に今度はあちらからキスをされて。
きちんと唇に降ってきた感触に、日吉はホッと安堵してそのまま委ねた。


プラン・トラップ
(プラモの腕は取れやすいと、彼は知らなかったのです)




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