絶え間ない騒音をたてて、大粒の雨が降っていた。
「…ッチ」
一足早い梅雨なのだろうか。なんにせよこの雨は鬱陶しい。湿気で煙草もうまく吸えないし、何より自分は傘がない。
学校で貸し出している傘もあるが、そんなものを借りるのは己のプライドが許さない。のこのこと職員室に行くくらいなら、濡れ鼠で帰ってババアにうざいくらい心配されるほうが幾分マシだ。
そう考えながらもう一度舌打ちし、平べったいカバンを持ち直す。自分が人一倍視線を集めやすい自覚はある。放課後の乗降口などというところに長居したところでいいことなどひとつもない。心持ちいつもより大股で歩きだそうとしたとき、不本意ながら聞き慣れた、能天気な声が聞こえた。
「あっれぇ〜、亜久津?傘忘れたの?」
「…ならどうした」
「あはは、ヘマするあっくんってなんか貴重だね。いいもの見ちゃった、ラッキー」
「…うぜぇ」
地面に付かない短い傘を振り回しながらニヤニヤと嫌な笑い方をするその表情に、顔をしかめる。なぜこいつはヘラヘラと人目を気にせず話しかけてくるのか。お陰で自分の失態が広まってしまった。ケンカ売ってんのかコイツ。
「あっくんあっくん、どうやって帰るの?カゼ引いたらだめだよ、まだ大会あるんだから」
「俺に指図すんじゃねぇよ。さっさと帰れクズが」
そう凄んでもひどいなぁ、と受け流すばかりで。こういう人種は昔から嫌いだった。茶化そうと無理に笑うのではなく、全く堪えてないかのように受け流す。そういう意味で顧問のジジイと今目の前にいるこいつは非常によく似ている。こんなのが二人もいるテニス部に、なぜ自分は入ったのか。当時の自分はとち狂っていたとしか思えない。
しかし。
「えー、でもさー、全身びしょ濡れで雨の中歩く惨めなあっくんなんて見たくないしなぁ」
「…てめぇには関係ねーだろ」
「あ、じゃあさ。あっくん、入ってくー?…なーんて」
冗談だよ、と諦めたように笑うその部分だけ、違う。
めんどくせぇと思う。堪えていないかのようなふりをして笑うくせに、怯えていることは隠しきれない。だから、ほころびから傷が見えてしまう。
傷など見えても放っておけばいいのに、放っておかないのはこいつだからだと、このオレンジ頭はいつ気付くのか。
「うわ、ちょ、亜久津!傘取らないで!俺帰れない!」
「うるせぇ。お前のが背ぇ低いだろ」
ムリヤリ奪った、浮かれたような黄色の傘を土砂降りの中に開く。これ差して帰るつもりだったのか、こいつ。馬鹿か。
「え、え、あっくん、まって、」
「んだよ、てめぇが言ったんだろ」
「え、なんで?いいの?」
「うるせぇ、置いてくぞ」
ぐい、と引っ張って隣に据える。ほころびから崩されると戸惑う、その様は嫌いじゃない。
「ねぇ、なんで?」
「さぁな」
わからないのなら、知らなくていい。
Happy birthday dear kappa in 0520!