◎ 死にゆくエンドレスブルー
新学期に入って最初の休日に、私は友人二人とともに市に来ていた。
無事に六年生に進級したお祝いに、好きなものを買いなさい、と両親がお金を送ってきてくれたために、新しい簪でも買おうと、外に出てきたのだ。
「うわあ、かわいい!」
「これ、いいんじゃないかしら。」
「うん、そうね。
花凛の髪にはすこし落ち着いた色が似合うから。」
そういって二人が指したのは、薄紫の小花細工があしらわれたものだ。華やかさはないが、その分上品で、私のゆるくうねった黒髪にはよく合うだろう。
「うーん、じゃあこれにしようかな。」
手にとって、光にかざしながら眺める。値段もちょうどいいしなあ、と店主に声をかけようとしたとき、女にしては落ち着いた、けれど男にしてはすこし高めの声が聞こえた。
「あれ?
花凛じゃないか。」
「ら、乱太郎?!」
バッ、と後ろを振り向くと、そこで立ち止まっていたのは茜色の細い髪を耳の下辺りで結わえた同い年の忍たまだった。その置くにはおなじみのきり丸、しんべヱもみえる。
「どうしたの、簪?」
「親が、好きなもの買いなさいって、」
「いいご両親だね。それで簪かあ、やっぱり女の子だねぇ。」
私たちだったらすぐに仕事の道具に換えてしまいそうだ、と小さく苦笑しながら、ぽんと軽く頭を撫でられた。その一瞬触れた、穏やかな外見に似合わず固い手に、ぐ、と唇をかむ。
「きりちゃん!しんべヱ!私ちょっとこの店見たい!」
「へえ、こんな店出てたんだな。」
「なかなかいいものがそろっているねえ。」
「でしょう?女の子はやっぱりこういう店を見つけるのがうまいね。」
ニコニコと嬉しそうに笑いながら、ありがとうね、と首を傾げられる。
同い年の癖に、そんな、後輩に接するみたいな態度をとらないでよ、と。
何度、口にしそうになったことだろう。
「乱太郎、それ?」
「うん。あんまりおとなしいと埋もれちゃうって言ってたし。朱が良く映えるんだ。」
ゆるりと、すこしうっとりとしているようにすら見える笑みを浮かべる乱太郎を見る。その簪が、乱太郎の女装用なんかではないことを知っている。私の黒髪ではとても負けてしまう、鮮やかな朱の花は、豊かな蜜色の髪を持つ、ひとつ年上の先輩に送られるのだろうと。
(…なぜなの。)
彼らにとっての「同輩」は、ひとつ上なのだ。忍術学園独特のこの習慣は、いまさら抗えはしない。どう願ったところで、乱太郎たちにとっての私たちは、彼女らの後輩でしかない。
本来なら、一番近いのは私たちのはずなのに。
視界の端にうつる黒髪が、ひどく疎ましかった。
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