太陽と虹 | ナノ
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「泣いてもいいのかな。」

「喜三太?」


 どこか夢心地のまま委員会を終えて部屋に戻れば、喜三太が電気もつけずうずくまっていた。


「きんごぉ…」

「どうしたの?」

「……六年生がね、いなくなっちゃったでしょう?それでね、悲しくなっちゃって。」


 眉尻を下げて悲しそうにナメ壺を抱きしめる喜三太を前にどうすることもできずに立ちすくむ。喜三太はなんだかんだで強くって、慰められるのはいつもぼくのほうだと言うのに。
 いつも、泣き虫のぼくが泣いたとき、喜三太はどうしてくれていたっけ。四郎兵衛せんぱいは、次屋せんぱいは、滝夜叉丸せんぱいは。
 ななまつせんぱい、は。


「……いつもと逆だねぇ、金吾。」


 ぽん、と喜三太のまるい頭に手を乗せると、ふにゃりと笑う。その拍子に目尻に残っていた涙が滑り落ちて、どこかへ消えた。


「…みんなは?」

「乱太郎は医務室で当番で、団蔵は帳簿残ってるから会計室って言ってた。後はみんな部屋にいるよ。」

「そっか…」

「大丈夫?」

「どうして?」


 こっちの科白だよ、と笑ってやれば、ますます眉が下がる。喜三太?と声をかけるけど答えはなくて、ねぇ金吾、と逆に言われた。


「泣かないの?」

「…ぼくだっていつまでも泣き虫なわけじゃないよ。」







「帳簿がね、全部終わってたんだ。」


 珍しく気落ちした様子の団蔵に何かあったのかと問いかければ、そう答えが返ってきた。いつもなら喜ぶはずの出来事に対してのあまりにもしょげた様子に首を傾げれば、「潮江せんぱい…」と小さな声が聞こえた。


「代がわりしてから、いくら助けを求めても絶対手伝ってくれなかったのに…」


 こんな、最後になんて、ひきょうだ。


「お礼だって言えなかった…」

「お礼…」


 お礼、なんて。ぼくだって言えてない。


「引き継ぎのときとかに言わなかったの?」

「田村先輩が仰ったからそのときに一応…」


 けどさあ、
 そう続けた団蔵に、握りしめた拳が震える。
 けど、ってなんだ。
 ぼくは、それすらできなかったんだ!


「…団蔵は、わがままだよ。」

「なんだって?」

「だって、そうだろ。いつも文句言ってるくせに潮江せんぱいがいなくなったとたんにお礼言いたいなんて!だったら引き継ぎのときにきちんと言っておけばよかったじゃないか!!」


 ぼくは、ぼくは、
 それすら許されなかったというのに!


「うっせえよ金吾!」


 ああ、違う、違うんだ。
 許されなかったわけじゃない。その時を、ぼくが知ろうとしなかっただけ。
 だって、だってだって、
 委員会が終わったあと滝夜叉丸せんぱいは、どんなにフラフラでも、「ありがとうございました。」とあいさつをさせていた。
 だから、いくらでも、お礼なんて言えたというのに。


「金吾…?」


 悔しい、悔しい。なんでぼくは、気づかなかったんだろう。滝夜叉丸せんぱいも、次屋せんばいも、四郎兵衛せんばいも、教えてくれていたというのに。


「ねぇ、金吾。」


 ぽん、と。
 昨日ぼくがやったお返しのように、喜三太がぼくの頭にやわらかい手を乗せる。


「悔しい、じゃないよ、金吾。」

「なに…」

「かなしい?さみしい?」


 くやしい、じゃなくて。


「さみしい…」

「…そっか。大丈夫だよ、金吾。それも強さだから。」


 食満せんばいが、そうおっしゃっていたもの。
 ふんわり笑う喜三太は、確かに昨日より強くなっている気がして。


 ねぇ、みんな。