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「え、バイト服なん? ウケる〜」
「おーよ。でもわりと様になってるっしょ?」
「オイラも普段より輝いてるだろォ!?」
「うーん、ふふ、まあ、まあまあ」

 上鳴くんたちはバイトのギャルソン服らしい。エプロン取ったら正装っぽいから押し通すつもりのそうだ。そこまで厳格なパーティーじゃないっぽいから、言うても大丈夫でしょう。壁にもたれながら上鳴くんたちと談笑していたら、轟くんがそっと寄ってきた。視線は私の足元、キラキラのパンプスだ。ハイヒールってほど高くはないけど、それなりの尖りを見せている。頑張れば刺さる。多分。

「足辛くねェか?」
「ん、余裕〜でも借りれるもんは借りちゃう」
「お、っ」

 轟くんが差し出してくれた腕をとって、ぐっと体重を乗せてみる。少しだけ前に傾いたけれど、体幹が鬼の轟くんはふらつくこともなく、むしろ軽く私の腰に手を添えた。必要最低限にしか触れようとしないあたりも紳士。

「なんだよ! スマートにしやがって!」
「これだからイケメンはァァ!」
「いやいや、そこは見習いなさいって」
「なんで怒ってんだ?」
「ただの僻みだからほっといてい〜よん」

 いつもより少しだけ近付いた高い位置にある肩に、肘をのしっと乗せてもたれかかる。俺が椅子になる! と騒ぐ峰田くんから視線を逸らせば、ゲートの生体認証がぽやん、と反応した。お。

「ごめん! 遅くなって! ……って、あれ? ほかの人は?」
「やほ〜遅刻やくん」
「まだ来ていない。まったく、団体行動をなんだと思ってるんだ!」
「怒りやくん」
「それだとドリフみたいになんねぇ?」
「つか怒ってんの飯田だろ」

 そうだわ。怒り田くんだったわ。おこぷんの飯田くん越しに、緑谷くん蝶ネクタイなんだ……と眺めていると、さらにその背後の扉が再び開いた。

「ごめーん! 遅刻してもーた」
「おっ」
「申し訳ありません。耳郎さんが……」
「オーイエス! イエス!」
「え、かわい〜」

 ピンクと白のふんわりとしたミニ丈のドレスは、フリルがかわいらしくてお茶子ちゃんらしい。かわいい。
 百はアイスグリーンのロングドレスで、着慣れてるんだろうなあ、と余裕が溢れている。ティアラかい〜。私もなんか付けたらよかった。
 その後ろに隠れている響香は、パンクロック&カジュアルないつもと色味は似ているけれど、フレアスカートに恥ずかしげな姿がかわいい。髪の毛のアレンジが普段と違ってまたかわいい。

「ティアラいいな〜!」
「まあ! 磨さん、すごくかわいらしい……!」
「うわ、磨ちゃん流石やあ!」
「へへ〜、かわいいでしょ」

 見てみて、とスカートを翻して、キラキラのスパンコールを煌めかせる。ほぼ青山くんと同じだ。かわいいかわいい、とみんなで褒め合って、女の子って楽しい! 𝑪𝑨𝑵𝑴𝑨𝑲𝑬 𝑻𝑶𝑲𝒀𝑶。

「三人もかわい〜! 写真……後で撮ろ!」
「うん!」
「っていうか轟、めっちゃ凄いことなってんじゃん……」
「俺か?」

 また余計なことを言ったらしい上鳴くんと峰田くんをぶっすりといってる響香が、轟くんを見てうわ、と声を上げた。ふふん。

「自信作です」
「えっ、磨ちゃんがやったん!?」
「そ〜。時間あったからね」
「イケメンの髪型チェンジは反則だろ〜……」

 ヘロヘロの上鳴くんが、轟くんを見上げた。そんな違うか? と自分の前髪を摘む轟くんに、ピースを向けておく。うんうん、全然違うよ。

「やっぱ轟って顔良いよね」
「超イケめてるでしょ」
「随分雰囲気が変わりますわね……」
「あ、っていうか百のティアラかわいすぎるんだけど」
「まあ、ありがとうございます!」

 金色のティアラがよく似合っている。あと高そう。セットはしたけど、ヘアアクセ類なんも付けてこなかったの失敗だったかな? 想像よりみんなもおめかしして来てた。

「よければお作りいたしましょうか?」
「え!」
「まーた磨を甘やかして」
「やったあ百だいすき」
「まあ!」

 きゅっ、と軽く百にハグしに行くと、響香にじろっと睨まれるけど、百が喜んで抱き返してくれるからいいもんね。露出された百の皮膚がきらめいて、にゅにゅっとティアラが出てきた。

「おそろだ! うれしい」
「ええ!」

 丁寧に頭の上に乗せられたティアラは、シルバーに輝いていて、百と色違いのお揃いだった。かわいい。

「なんかもう満足してきた……帰って喋らん?」
「今からだっつーの」
「うふふ」

 かわいいドレスを着て見て、みんなとわいわいしたら満足感出てきたよね。ラグジュアリーホテルのスケベ部屋で箸でスナック菓子とか乾き物摘みながらだべりたくなってきた。さすがに本末転倒なので本気ではないけど!
 響香のスマホで百とおそろツーショを撮っていたら、

「デクくんたちまだここにいたの? パーティー、始まってるわよ」
「わ、美人〜」

 ピピッ、と認証され開いた扉から現れたのは、先程であったメリッサさん正装バージョンだ。大人っぽいブルーのドレスが、眼鏡を外して薄く化粧の施されたメリッサさんによく似合っていた。かわいい。上鳴くんと峰田くんのテンションが更に爆上がりしていた。

「ダメだ。爆豪くん、切島くんのどちらの携帯にも応答がない」
「あら、電源切っちゃったのかな」
「アイツらあんまスマホ見ねェしなー」
「爆豪くん上鳴くんのはあえて未読スルーしてるって言ってたよ」
「マジかよ! いじめ!?」

 そろそろ入ろっか、と思ったのだけど、そういえば爆豪くんと切島くんがまだだ。えー、爆豪くんの正装、ちょっと楽しみなのに。さっきホテルで通話した時は全然繋がったのになあ。どないしたんやろね、とお茶子ちゃんと首を傾げて、ついでにツーショを撮っていると、急に不穏な機械音が鳴り響いた。

「え、なに?」
「警備システムが作動しているわ……!」
「警備システム!?」

 私の疑問にメリッサさんがそう答えた。その表情は、さっきの笑顔を潜めて訝しげな焦りが出ている。

『I・アイランドの管理システムよりお知らせします。警備システムが、I・エキスポ会場内に爆発物が仕掛けられたという確定情報を入手。I・アイランドは現時刻をもって厳戒モードに移行します』
「爆発物……?」

 呟くと、隣にいたお茶子ちゃんが不安げに身を寄せてくる。柔らかい手のひらをぎゅっと握って、お互いを励ましあった。その後も機械音声はアナウンスを続け、主な施設は、システムによって強制的に封鎖されるらしい。その警告とともに、防火シャッターが閉まって行った。うーん、まじで何事。こういう時、未成年の私たちは案内に従って避難するのが一番なんだけど、入口閉じちゃったから、ホテルに戻るわけにもいかなさそうだ。
 にしても、I・アイランドに爆発物……? これだけ入場システム険しい中に? 密入国がだいぶ不可能なはずなんだけど、どんな強固な城にも抜け道はある、ってやつなのかな。小型でも威力強い爆弾とかあるしなあ。あとは、このI・アイランド内で作られた物とか……。ま、これだと身内犯の可能性が出てくるし、まだ犯人の狙いもはっきりしてない、しかも私が直接関わる事案でもないだろうし、余計な混乱を招く憶測は心の中へ秘めておこうと思った。



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