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「あえ」

 サポートアイテムを展示しているパビリオンに向かっていると、チュロスを食べる自撮りを送り付けた飯田くんから、緑谷くんたちと合流したぞ! と返事が着た。百はわかるけど、え、緑谷くんもいるの?

「ねえ、なんか緑谷くんいるらしいんだけど」
「お」
「飯田くんの付き添い……ではないか。合流したって書いてるし」
「誰と来たんだろうな」
「ね〜」

 飯田くんはヒーロー一家なため招待を受け、百もパパ万がスポンサー企業の株主らしく招待を受けているらしい。招待状余ってるから〜って声をかけてくれたんだけど、轟くんとの先約があるから、と他の女子にお譲りした。轟くんと行く、っていうと三奈や透が相変わらず色めき立っていたけれど、好きだなあ〜と放置しておいた。まあ、というわけだから、A組数人が来てるのは知っている。

「ちょっと合流してみる?」
「そうするか」
「ね、せっかくだし」

 そっち行きま〜、と送ると、マップのURLが送られてきた。気を付けてくるんだぞ! と委員長からのありがたいお言葉が返ってきた。

「飯田との会話、すげぇな」
「飯田くんさ〜、盛れた写真送ると一言コメント返してくれるからウケんだよね」

 ヴィラン・アタックのアトラクションに向かっているらしい。マップを轟くんに見せると、わかった、と頷いて、それよりも私と飯田くんの一方的なメッセージの内容が気になったらしい。飯田くんとの履歴、ほぼほぼ私の写真保存欄だし。飯田クラウドだ。轟くんはどんなメッセのやり取りしてるの? と聞いてみたら、見せてくれた。

「ああ、男の子って感じ」
「そうか?」
「うん」

 飯田くんはよくびっくりマークを使うけれど、それ以外記号も絵文字もスタンプもない、極々シンプルかつほぼ連絡事項にちょっとした日常会話、程度の、あ〜男の子だな、って感じの内容だった。まだ爆豪くんの方がスタンプ返ってくる。既読無視率も高いけど。
 ぼちぼち歩いていると、それっぽい建物が見えてきた。コロシアムっぽい円形の会場は、随分賑わっているらしい。爆発音が時折響いている。

「へー、体験型アトラクションだって」
「みてぇだな」

 入ったところに受付があって、参加登録が出来るらしい。入口にあるモニターで、会場内の様子も見れるようになっていた。

『死ねえぇえ!』
「死ねて」
「爆豪か」
「まじもんのかっちゃんじゃん」

 物騒な日本語がモニターから響き渡る。続いて、派手な爆破音。爆豪くんも来てたんだ〜。見事一位に躍り出てるあたり、やっぱり才能あるよねえ。

「あっ、ねえ、轟くんやってってよ」
「ああ、そのつもりだ」
「ふふふ、意外と熱いよね、轟くんも」
「そうか?」

 クールだけど闘志高めだよね。体育祭辺りまでは闘志しかなかったけど。

「おまえはやんねぇのか?」
「うん、私向いてないし」
「そうか」
「客席から応援してる〜。頑張ってね!」
「ああ。行ってくる」

 ポン、と肩に触れると、轟くんが少しだけ眉を下げた。さて、私は客席に向かおう。



『さて、飛び入りで参加してくれたチャレンジャー! 一体、どんな記録をだしてくれるのでしょうか!』
「あれ、緑谷くんじゃん」

 客席へ向かうと、次の参加者の開始だった。しかもそれが見知った人物だから、ちょっと驚く。先着いてたんだ。ずずっ、カップの半分を切ったタピオカキャラメルミルクティーを啜って、見慣れた集団に近付いた。お、緑谷くん2位だ。すげ〜。

「やほ」
「緩名くん!」
「磨ちゃん!」
「こちらにいらしてたのですね!」
「うん、飯田くんから聞いて」

 あれ、飯田くんと、百の付き添いになったお茶子ちゃん、響香はともかく。

「切島くんもいたんだ」
「おお! 俺は爆豪の付き添いでな」
「保護者じゃん」
「誰が誰の保護者じゃ! ア゙ァ!?」
「ちゃっかり聞こえてた」

 緑谷くんに怒鳴って絡んでるくせに、爆豪くんって地獄耳〜。爆豪くんは体育祭の優勝で招待状をもらったらしい。

「まあそんなカッカしないでよ〜これあげるから」
「飲み終わってんじゃねェか!」

 はい、と手に持っていたカップを爆豪くんに押し付ける。まだゴミじゃないよ、3割くらい残ってるし。残飯処理さすなや! って怒るくせに、ズゴゴゴッと凄い勢いで吸い上げてるあたりが爆豪くんのキュートポイントだ。それ私とだけじゃなくて轟くんとも関節キスなのは黙っといてあげよ。

「あれ、緩名さん!?」
「緑谷くんおは〜おつかれ〜」
「君も来てたの!?」
「そうでぇす」

 爆豪くんに絡まれていた緑谷くんが、私の存在に気付いたようで驚きの声を上げた。私としては緑谷くんがいる方が驚きなんだけど。なんだろう、オールマイトの同伴とか? なんかこの二人、ただならぬ関係らしいし。ま、興味ないからなんでもいいんすけどね。

「轟は?」
「ん〜? ん」

 響香に聞かれて、くいっと親指をステージに向けた。ちょうど次のチャレンジャーとして紹介される轟くん。地面に手を付け、ハア、と深い呼吸の直後、一息に凍り付いていく仮装敵や地面。やっぱ範囲制圧鬼だわ。ひやっとした空気が客席にまで伝わってきた。やっぱすげぇよミカは。司会のお姉さんが興奮した声で、爆豪くんと1秒違いの記録と現在トップに躍り出たことを告げた。

「轟くん!?」
「彼もクラスメイト?」
「はい!」

 金色の髪の、背の高い美人さんが百に尋ねた。そういえば、この方どなた? あちらも気になっていたようで、ふと視線を向けるとかち合って、お互い微笑んで頭を軽く下げた。メリッサ・シールドさんという彼女は、緑谷くんのお知り合いらしい。

「へえ?」
「あのっ、ちちちち違うんです……!」
「なんも言ってないじゃ〜ん?」

 片眉を上げて、ニヤ〜、と悪い顔を作って緑谷くんを見たら、何かを否定された。緑谷くんもやるなあ。

「みんな! 止めるんだ! 雄英の恥部が世間に晒されてしまうぞ!」
「恥部て」
「や、あれは恥部だから」
「たかし」

 爆豪くん、恥部呼ばわりされてるよ。ウケる。勝手にステージに上がり込んで順番抜かしっ子しようとしている爆豪くんを、男の子たちで止めにかかっていた。響香やお茶子ちゃん、百は恥ずかしそうにしているけれど、メリッサさんは朗らかに微笑みを浮かべている。え、かわいい。美人だ。

「雄英校って、楽しそうだなあと思って」
「めっちゃ楽しいよ〜」
「アンタは軽すぎっ」

 今まで人よりも多めに学生生活を過ごしてきたけど、密度で言えば一番かもしれない。ので、素直に答えたら響香のイヤホンジャックがペシッ、と私の肩を叩いた。

「……少なくとも、退屈はしてないですわね……」
「たしかに……」
「ふふ」

 クラスの人数は少なめだけど、ヒーロー科、入学前の想像よりずっと楽しい。少々過酷ではあるけれど……。引き摺られていく爆豪くんと、ますます恥ずかしげに肩をすくめる女子たちに、メリッサさんと顔を見合わせて笑みをこぼした。



「ウチら次ここ行こってなってるんだけど、磨たちどうする?」
「ん、どうする?」
「どっちでもいいぞ」
「あら」

 お騒がせしすぎたので一先ずヴィランアタックの会場から出ると、響香からお誘いがかかる。ここのチケットとか全部轟くんのだし、お伺いを立ててみるとほんとにどっちでもよさそうだった。爆豪くんと切島くんは別行動、というかもうさっさとどっか行っちゃって、他のみんなは一緒に回るようだ。アカデミーの三年で、島内を知り尽くしたメリッサさんの案内付きツアーはなかなか惹かれるものがある。チラ、と隣にいる轟くんを見上げると、ひんやりした色の瞳が私を見下ろしていた。うん。

「ん〜、魅力的だけど今日は別行動で」
「おっけ、分かった」

 団体行動もいいけれど、轟くんの腕を取って、軽く絡める。

「いいのか?」
「うん。轟くんとデートしたいし」
「お」
「わあ!」
「まあ!」
「うっわ」

 上から轟くん、お茶子ちゃん、百、響香だ。響香の反応だけなんかおかしくない? うっわて。引いてる?

「芦戸にチクッとこ」
「すみません響香さんマジ勘弁してくださいまじで……響香さん……」
「ジョーダンだって」

 三奈にチクられたら絶対うるさい。今日のプレオープンには厳選なる抽選の結果残念ながら……で来てないけれど、I・アイランド内には来てるみたいだし。そうでなくとも轟とどう!? って時報レベルに着て一時ミュートにしてるのに、さっきの発言バレたらやっぱりそうなんじゃん! と大盛り上がりすること間違いなしだ。

「私たちは今からサポートアイテムのパビリオン行くしね」
「ああ、ウチらもう見ちゃったとこか」
「めっちゃ楽しかったよ!」
「え〜、超楽しみ」

 期待高めてこ。体験型のものも多くて、今の時間なら比較的空いてるんじゃないかしら、とメリッサさんが。空いてたらラッキーだな。

「磨さんたちもパーティには来るのよね?」
「うん! 行きます」
「それならまた後でね! お話出来るのを楽しみにしているわ」
「え? かわいい」

 メリッサさんかわいい。計算のないかわいさだ。ずるい。その計算のなさ、ほしい。磨さんだってとってもかわいいじゃない! とあせあせしているメリッサさんと、女子特有のキャッキャトークをしていると、響香があ! と声を上げた。なんだい。

「あ、ここ上鳴と峰田がバイトしてるから今日は止めといた方がいいよ」
「うそ〜! ウケる、絶対行かないでおく」
「アイツらも来てんのか」
「バイトしに来てんのおもろいよね」

 なにしに来てんの、あの人たち。空気だけでも味わいたかったのかなあ。好きなアイドルのチケ外れてスタッフバイトする感じだろうか。人間っていろいろあるよね。

「じゃ、また後で」
「ええ、また!」
「ん、じゃ」

 優雅に手を振ってくれる百と、百の真似をして若干優雅に手を振ってくれるお茶子ちゃんと響香と、朗らかなメリッサさんと、プラスアルファの飯田くんと緑谷くんにバイバイして、轟くんの腕を引いたまま歩き出した。

「体験型もあるんだって〜」
「ああ、言ってたな」
「空いてるといいね」
「ああ」

 MMORPGのVRゲームみたいなのがあればいいなあ。流石にないか。ログアウト不能になって閃光の磨として名を馳せるのもいいかもしれない。

「パーティって立食だよね?」
「ああ」
「桃のチーズケーキ食べたい」
「ふ……」
「え、なんで笑ったの?」
「いや、あるといいな」
「うん! 高い飯いっぱい食べちゃる」

 肉とデザート中心にパーティ飯荒らしたろ、と少しだけスキップした。……轟くん、スキップ下手だわ。



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